MOTORCYCLE

空手で言うところの
~どこへでも行けそうなデザートXで街を走る~

2019年のEICMAで1台のコンセプトモデルが会場を沸かせた。
遥かなる砂漠への想いを具現したかのようなドゥカティの新基軸モデル
フロント21インチの「デザートX」がついに日本でも発売される。
日本1号車を夕まずめの都内で試乗し、印象をしたためた。

文/宮崎正行 写真/安井宏充(Weekend.)

夢は遠くにありて思ふもの? いやいや俺こそサムライダー!

アイドリングの音、そのボリュームがデカい。これがデザートXへの第二印象だ。じゃあ第一印象は何かって? それはもう、このスタイリングです。話がちょっと古いけれど、初代のムルティストラーダやハイパーモタードが出たときは「ちょっと変なカッコ……」と密かに思っていたけれど、今回は違う。まったく違う。ストレートに「カッコいいじゃん!」と小生はビンビンに感じてしまった。コンペティティブな、まるで往年のパリダカマシン。L型ツインエンジンはいつも通りのヤケクソ気味に荒っぽい回転フィールでライダーを威嚇する。うーん、その全部がフィール・ソー・ナイス。俺、なんだか好きになっちゃいそう!
おっと、あまりにタイプゆえ思わず感情がほとばしってしまったが、デザートXはドゥカティが真剣に取り組んだフロント21インチのオフローダーだ。まるで初オフ車とは思えないほど造り込まれた外装フォルムと各種のデバイス、パワーモード。処女作ゆえの至らなさなんてどこからも感じられない。今回はオフロードでの試乗はしていないが、車重223kgの巨体がシティライドで意外に乗りやすかったことに驚いた。

まずその車体だが、ビッグだがめちゃくちゃデカいわけではない。リッタークラスのアドベンチャーモデルに比べてもなお標準的である。日本で 1台目になるこの車両は本国イタリア仕様のままのシート高875mmだったので、身長172cmのジャパニーズは信号待ちのたびに少なからず恐怖を味わった。エンジンはムルティストラーダV2やハイパーモタードに積まれた排気量937ccのテスタストレッタ11°ベースのものが搭載される。オフ走行に合わせてミッションは1 〜5速のギア比が低くリセットされ、6速をオーバードライブ化することで長距離ツーリングでの快適性と燃費をアップしているという。パワーモードはフル、ハイ、ミディアム、ローの4種に加えて、コーナリングABS(3段階)やトラコン(8段階)のセレクトが可能。さらに6種のライディングモード(スポーツ、ツーリング、アーバン、ウェット、エンデューロ、ラリー)も選べるという選択肢の多さで、こればかりはフルに使いこなせるか自信がない。しかしそこはさすが後発のドゥカティ、エンデューロモードではパワーを抑制することでビギナーでも快適にダートを走ることができるらしい。ちなみにラリーはフルパワー&低介入のベテラン向けセットだ。

「刀を抜かないところに侍の価値がある」

このほかの電子制御デバイスもそのほとんどがフールプルーフやフェイルセーフの方向に向かっていることを考えると、ここは素直に「ありがとう」と言うべきなのだろう。いまいち実感が湧かないものの、フルサイズのラリーマシンが街中でこんなにも簡単に走らせられること自体、すでに恩恵に浴していると考える方がきっと自然だからだ。筆者のローテクニックをしても、シティライドであれば振り回せると勘違いさせてくれる──そのことをおもんぱかってもデバイスの効果は明らかだ。
パリダカ全盛当時、カジバ傘下のドゥカティがあのエレファントに供給したエンジンも自製の空冷L型ツインだ。その後カジバ・エレファントは90年と94年にパリダカを制覇し、その実力を世界に知らしめた。そんな過去のエピソードへのオマージュとして、新型デザートXは存在する。そしてそんな出自ゆえのデザートXの凛々しさに筆者はふたたび奮い立ってしまったのだ。
そういえばあの大山倍達も「刀を抜かないところに侍の価値がある」と言っているじゃないか。こんな自分にだってデザートXに乗る資格はきっとあるはずである。たぶん。

フロントにはラージサイズのブレンボ製M50を装着。KYB製のフロントフォークはインナーチューブ径46mm、トラベル230mmを確保している。

エルゴノミクス技術を駆使してモデリングされた立体的なシート形状。スチールパイプを組み合わせたトレリスフレームはデザートXのために新設計された。

リヤサスもKYB製でリンクレスのモノショックとなる。

電子デバイスはエンジン・ブレーキ・コントロール(EBC)のほかに、ドゥカティ・ウィリー・コントロール(DWC)、ドゥカティ・クイック・シフト(DQS)が搭載される。

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Ducati DesertX
●サイズ=全長──mm×全幅──mm×全高──mm ●ホイールベース=1608mm ●シート高=875mm ●タイヤ=前90/90-21、後150/70-18 ●タンク容量=21L ●車両重量=223kg ●エンジン=937cc水冷4ストロークDOHC L型2気筒 ●最高出力=110ps/ 9250rpm ●最大トルク= 9.4kgf・m/6500rpm ●価格=1,939,000円(予価)