MOTORCYCLE

インドのライダーたちに会いに行く
~ロイヤルエンフィールド「ライダー・マニア」レポート

2022年11月に開催されたロイヤルエンフィールド主催のバイクイベント、「ライダー・マニア」。
この祭典を、海外バイク事情に精通する二輪ジャーナリスト、河野正士がリポートする。
※Moto NAVI 2023 WINTERに掲載された記事を再編集したものです

Text & Photo_KOHNO TADASHI

バイクに対する情熱はインドも熱かった

インドのライダーたちは、なんて熱くて、エンターテイナーなんだろう。
今回の取材は、そんなインドのライダーたちに救われた思いがした。見知らぬ場所に行くときは、少し身構えてしまうのは仕方がない。だからロイヤル エンフィールド(以下RE)が3年ぶりに開催した「Rider Mania2022(ライダー・マニア)」の取材を決めたときにも最初は少し緊張していた。しかしいざその地に足を踏み入れ、その土地の空気を吸ってイベントに溶け込むと、現場の楽しい空気に不安はすぐに吹き飛んでしまった。
「Rider Mania」はREのオーナーが中心のイベントであるが、RE的には”ピュア・モーターサイクリングの祭典”と表現し、すべてのバイク好きに門戸を広げている。

スタートは2003年。かつて「Rider Mania」は、インド全土に広がっていたREのオーナークラブが、独自に開催していたクラブイベントだった。そ れがREの主催するイベントとなったのが2003年。最初は200人弱のREオーナーが集まる小さなイベントだったが、今年は1万5000台を超えるバイクが集まったと発表。タンデムやクラブのサポートカーでの参加を考えると、参加人数はさらに大きな数字となるだろう。
場所はインド西部のリゾート地、ゴア。1年を通して最高気温は30度を超え、かつてポルトガル領であり、アラビア海に美しいビーチがいくつもあることから、インド国内外から多くの観光客が集まる場所として知られている。1970年代にはヒッピーたちの聖地と言われ、また1990年代にはおもにヨーロッパから来た観光客たちによって、“ゴア・トランス”と呼ばれるトランスミュージックが生み出されたことでも知られている。

イベント会場となったヒルトップは、ゴア州の州都パナジからクルマで1時間ほど北に走った場所にある。ビーチまで歩いて行ける場所にある、広大な赤土の広場だ。ここにオフロードレースやフラットトラックスクールを行う「MOTOTHRIL(モトスリル)」エリア(少し離れた場所にヒルクライムレースを行う場所も造っていた)、REの新型車や歴史的モデル、カスタムバイクを展示したりアート系ワークショップなどを行ったりする「MOTOVILLE (モトヴィル)」エリア、巨大なコンサートステージ「MOTOSONIC(モトソニック)」エリア、REの純正アパレルやアクセサリー、バイク関連アパレルブランドやパーツブランドのアイテム、それにフードやドリンクが充実した「MOTOSHOP(モトショップ)」エリア、ロイヤルエンフィールドの開発陣がニューモデルの開発裏側を語ったり、バイクにまつわる様々な活動をしている方々がプレゼンテーションを行ったりする「MOTOREEL(モトリー ル)」エリアなどなど、エリア毎が空間を分けながらもそれぞれが隣り合っていて、いろんなコンテンツに簡単にアクセスできる巨大なイベントスペー スを造り上げていた。

またゴア周辺の歴史的場所や観光スポットを巡るガイド付きツーリングも企画されていて、早朝出発の長距離ツアーから午後出発のご近所ツアーまで、それぞれに多くの参加者が集まり、賑わっていた。
ユニークだったのは、11月18日から20日まで開催されたイベントの、おもに初日の金曜日、インド全土から集まってきた各地域のREクラブの面々が、今回のRider Mania参加のために作った、お揃いのTシャツや民族衣装、ターバンなどを撒いて、各クラブのメンバーが隊列を組んで入場。ときにはバイクに乗って、ときには歩きで……そのときにはエンジンを吹かしたりクラクションを鳴らしたり、バイクを降りた隊列は楽器や笛を鳴らし、踊り、大声で歌いながら「MOTOVILLE」エリアや「MOTOSHOP」エリアの入口ゲートをくぐるのだ。
一般的なバイクイベントでは、週末に向けて人が増えていくイメージだが、Rider Maniaでは各地からライダーが集結し、彼らが一気に会場になだれ込む初日の金曜日がもっと盛り上がるという、盛り上がりバランスであった。

楽しそうにポーズをとる笑顔。

はじめてのインドでのバイクイベント取材、経験とは少し違う来場者の流れや雰囲気、はじめて対峙する大量のインド人ライダーたち……そんななかで、最初は遠慮気味にカメラを構えて写真を撮っていたが、その遠慮は最初の1時間くらいでどこかに吹き飛んでしまった。
写真撮ってもいいですか、と最初に断りを入れながらスタートした撮影は、楽しそうにポーズをとる彼ら彼女らの笑顔に吸い込まれ、カメラと被写体の距離がドンドン近くなっていく。すると、君はどこのクラブに所属してるの? 日本から来たの? このイベントのために? そりゃ凄い! おいみんな、コイツ日本からわざわざ来たんだって! マジか! じゃあみんなで写真撮ろう! みたいな流れで、ドンドン彼らのペースにのみ込まれていく(日本から来たなら一緒に写真を撮ってくれと言われ、何故か僕を中心としたツーショットやグループのセルフィー写真を何枚も撮られた……)。でも、いざのみ込まれてしまうと、あとはその楽しさに身を任せて、カメラを持って近づいていくと、もう古くからの仲間と一緒にいるような感覚でRider Maniaというイベントを楽しむことができたのだった。

イベント取材後半、久しぶりに会った韓国人ジャーナリストと話しているとき、コウノさんは欧州のバイクイベントをたくさん取材しているがRider Maniaとそれらは何が違う? と質問された。そう聞かれて少し思いを巡らせたが、僕の答えはこうだった。なにも違いはない。細部にそれぞれの文化の違いはあるが、ここにはバイク好きしかいないし、みなオープンマインドで他者を受け入れている。だから僕のような異邦人がフラッとやってきても、バイク好きと言うだけで楽しめてしまう、と。

インドはいま、年間2000万台ほどの巨大な二輪市場を持っており、また電動バイクを中心に新しいモビリティ開発やそのインフラ開発において、その中心地。要するに、二輪界においてインドはいまもっともホットな場所だ。しかしそんな経済的視点とはべつに、バイク好き視点でインドを見たとき、「Rider Mania 2022」は僕にとってとても貴重な体験となった。ここにもバイクに熱い人たちが、こんなにたくさん居るということを理解することができたのだから。

※こちらの記事は、Moto NAVI 2023 WINTER(2022年12月23日発売)に掲載された記事を転載したものです。