MOTORCYCLE

HARLEY-DAVIDSON X350 × HOT-DOCK「レジェンド降臨」

ハーレーダビッドソンのミドルクラスモデル「Xシリーズ」。
そちらをいち早くカスタムしたカスタムビルダー界のレジェンド、河北啓二氏に話を聞いた。
※こちらの記事はMoto NAVI 2024 WINTER(No.123)に掲載されたものです

文/青木タカオ 写真/烏頭尾拓磨

フラットトラックならやっぱりXRのイメージなんだよ
王道だけどそれがいいんだ

違和感なく、すんなり入っていけたよ。このカタチ好きなんだ。ダートトラッカーXR750の王道といえるスタイルだよね!

そう言って笑うのは、ホットドックカスタムサイクルズの河北啓二さん。日本におけるカスタム黎明期から、唯一無二のクリエイティブティでシーンを牽引し続け、日本最大級のカスタムショーCOOL BREAKERを幾度にも渡って主催するなど国内のカルチャーを活性化させてきた。H-DレーサーXR750で筑波や富士(FSW)を走るレーシングライダーであり、フラットトラックの名手でもあり続ける。

2023年は史上最高2万5000人もの来場者数を記録したヨコハマホットロッドカスタムショー(以下、HRCS)、ハーレーダビッドソンのブースにておこなわれたトークセッションでのことだ。

河北さんはコアなファン層がワンサカいる中、話題沸騰中のブランニューモデルX350をあっさりと認めた。

アンダー400cc、中免(普通二輪免許)で乗れるハーレー。大排気量Vツインではなくパラレルツイン。日本導入が発表されると「これは違う」「欲しくない」と、SNSやネット記事のカキコミでは否定的な意見も見られた。

しかし、どうだ。2023年10月に発売されると、X500と合わせ僅か1ヶ月で受注が1000台に達してしまう。

ハーレーダビッドソンジャパンの野田一夫代表が販売目標に掲げたのは「年内500台」であったから、その倍の数字。想定を上回る反響であり、見事なまでの好ダッシュである。

正規販売店によれば、これまでブランドに触れる機会のなかった新規ユーザー、あるいは既存のライダーから2台目のハーレーとして選ばれているとのこと。ネガティブな見方をしているのは、一部に過ぎないのだろう。河北さんもまた柔軟に受け入れた。

「第一印象は小さい。普段はいつも大きいのばっかりやっているからね。最初からダートトラッカーっぽいスタイルをしているので好きな部類。気に入りました。コレはイケるってね!」

シーンにおける主役であり、カルチャーを牽引していくと言わんばかりに、例年HRCSに巨大なブースを構えるハーレーダビッドソン。今年の目玉は異例中の異例とも言える並列2気筒、排気量350ccと500ccの新型「X」シリーズだが、年に1度しかないカスタムの祭典にフルストックのノーマル車両だけを並べるはずがない。海外からも注目を集める熱き場所で、いち早くフルカスタムを披露してみせた。

プロジェクトを進めていく中、コラボレーションの相手としてすべてを託されたのが河北さん、そしてウェッジモーターサイクルの二平隆司さんだ。国内外を問わず注目を集める日本を代表するふたりのビルダー。X350を河北さん、X500を二平さんが担当した。

はからずとも完成した2台の車体はグレーだった。「色の指示はなかったし、本当に偶然なんだ」と、河北さんは笑う。タンクにはオレンジでチェスの駒「ナイト」(騎士)を描き、タンクとシートカウルの上にはチェッカーをあしらった。X350 Knightsと名付ける。他の駒を唯一飛び越えられるなど、トリッキーな動きをしてみせる軽快さが伝わってくる。オレンジはH-Dレーシングカラーであり、見てすぐにホットドック河北さんの世界観を感じ、ワクワクしてくるではないか。

「 これまでもずっとグレーを使っていて、それは子どもの頃から好きで影響を受けている戦車や戦艦のダークグレー。今回は明るいライトグレーで、じつは失敗している。スミ入れっていうシャドーを入れる模型を塗装する技法を使って、ガンプラっぽく仕上げたら最終的にはいい感じになったんだ」

航空機を彷彿させるリベットのディテールをはじめ、エアダクトや排気口のメッシュなど、SF っぽさが見るものを魅了してやまない。

オーダーを受けてから、製作期間は1 ヶ月ほどしかなかった。「 もっとやりたかった?」という問いかけには「ここまででいい」とキッパリ。
「サスやブレーキはいいし、足まわりも充分に完成されていてイジる必要はない」と言う。メーター、ライト、スイッチ、ハンドル周りはすべてノーマルのまま、ミラーだけを交換した。

「いま流行りのファットバーで、カタチがすごくいい。ハンドルって、なかなか気に入るものがないんだよ」

純正ノーマルパーツを巧妙に活かしつつ、完成へと至った。

「ストリートスタイルならいろいろとイメージでき、たくさんバイクをつくってきたけど、ダートトラッカーに関しては、XRのスタイルから脱皮できないのよ。王道がXRでガチガチだから、もぉ~崩せないんだよね」

XR750との付き合いは、かれこれ40年にもなる。アメリカで人気を誇るグランドナショナルチャンピオンシップで、ジェイ・スプリングスティーンやスコット・パーカーら国民的英雄を生み出した伝説的レーシングマシン。ずっとずっと好きで乗り続け、もはや身体の一部になっているとも河北さんは話してくれる。構造、操作、そこに宿るスピリット。誰よりもH-Dレーシングを知る第一人者と言っていい。

そして、X350はそのスタイルを現代に受け継ぐ。X350 Knightsが仕上がると、プロモーションムービーの撮影となったが、スタッフらが見失ってしまうほどに、河北さんは爽快にストリートを駆け抜けた。

「よく回るエンジンで、気持ちよくアクセルを開けられた。ちょうどいいんだよね。振り回せるっていうか。実際にダートトラックを走るならファイナルレシオを変更したり、バックステップの位置を前に戻したい。もっと下の位置で踏ん張りたいからね」

スタイルやカタチだけでは、決して満足しない。いつでもホンモノを追求していくから、そこには機能美があり、迫力や魂さえも感じさせてしまう。

マイスターが手掛け、ベースモデルの可能性が無限大に広がっていく。アンダー400のビギナー向けなどと、もはや見くびってなどはいられない。「自分にも1台」と、思わずオーダーを入れたくなるではないか。

 

ハーレーダビッドソン、Xシリーズとは?

これまでハーレーダビッドソンに馴染みのなかった若者や女性にも乗ってもらおうと、普通二輪免許で乗れるアンダー400ccの排気量帯でセンセーショナルなデビューを果たしたブランニューモデルがX350。大排気量Vツインという従来の概念を覆し、心臓部は並列2気筒。前後17インチの足まわりに倒立式フロントフォークがセットされ、軽快なスタイルはH-DレーサーXR750を受け継ぐ。新車価格はなんと70万円を切る69万8,800円。ハイエンドブランドの代名詞、ハーレーでは信じられないプライスがつけられた。国内デビューは専門誌だけでなく、テレビや新聞、一般誌など普段はバイクを扱わないメディアにも取り上げられ話題となっている。

 

HOT-DOCK CUSTOM CYCLES

河北啓二
国内のみならず、海外にもファンが多い世界屈指のカスタムビルダー。1980年にショベルFXSローライダーを購入して以来、ハーレーにこだわり他にはないカスタムや数多くのオリジナルパーツを発表、リリースしてきた。

HOT-DOCK CUSTOM CYCLES オフィシャルサイト
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