CAR

ヴィヴィオくんの最期、それから――。

長年連れ添ったクルマと離れて次に進むということ
人生の半分以上をともに歩んだクルマとの別れ。
しかし、人生はその先もずっと続く。そんな別れと再生の物語を追った。
※ナビカーズ 2019年11月号に掲載された記事を再編集したものです

文/日越翔太(ナビカーズ) 写真/三浦孝明

ナイトスクープに出演したあの“ヴィヴィオくん”はいま!

「ヴィヴィオくんの最後」このフレーズにピンときた人は立派なテレビっ子のはず。こちらはABCテレビの人気長寿番組、「探偵ナイトスクープ」で2017年に放送されたエピソードのひとつで、16年ともに暮らした愛車、スバル・ヴィヴィオとの別れを決断させてほしいという女性視聴者の依頼に番組が協力。最終的にはオーナーの希望で廃車、スクラップとなって天寿を全うする……という内容だった。

放送後、番組を見たクルマ好きのあいだで話題となり、多くの共感を集めたこの回。果たしてその後、オーナーさんはいかなるカーライフを送っているのか。それを探るべく彼女の住む埼玉県へと向かった。

出迎えてくれたのは、自らをヴィヴィオくんのお母さんと称し、現在は〝ハスニャ〜さん〞こと、スズキ・ハスラーとともに暮らすカナザワさん。笑顔が絶えないフランクな雰囲気はテレビで見たままだ。

「兄のクルマがブンブンうるさかったせいで、子供のころはクルマ嫌いでした(笑)。でも高校生のとき、 兄に勧められた〝頭文字D〞でクルマに興味を持っちゃって。卒業後、親が軽自動車なら買ってくれると言うので選んだのがヴィヴィオでした。そこからのめり込んでいって、同じヴィヴィオでもスーパーチャージャー付きのRX-Rへと買い換えて16年乗ってたんです」。

その間にカナザワさんは結婚し、子宝にも恵まれた。一方、そんな金沢さん一家とともに過ごしてきたヴィヴィオは経年劣化や維持費などの問題から手放すことに。離れがたい気持ちに踏ん切りをつけるべく購入したのが、スズキのハスラー(もちろんMT仕様)だった。

ヴィヴィオを手放す前にハスラーを買ってたんですが、なかなか乗り換えられなくて。でも、ヴィヴィオを廃車にしたことで気持ちに整理がついて、ハスラーのことも大切に思うようになりましたね。ステアリングはヴィヴィオ時代から20年近く使っているものをハスラーに移植したんですけど、そのためか運転席に座った感覚はこれまでと変わらないように思うんです」。

もちろん、湯水のようにお金をかけられれば、どんなクルマでもずっと乗り続けられるかもしれない。しかし多くの人にとって、それは現実的ではない。いつか必ず来る愛車との別れ。それをどう乗り越えるか。ひとつの例をカナザワさんは示したのだ。 しかし、そんな涙なしでは聞けない2台の交代劇を、ひとりだけ喜んで歓迎した人物がいるという……。

「私があまりにもヴィヴィオを大切にするから、娘はクルマにヤキモチを焼いてたみたいなんです。私にとってのヴィヴィオは、娘より早くからうちにいるカナザワ家の長男と言ってもいい存在なのに(笑)。乗り換えてからは、先日も娘と車中泊でロングドライブしてきました。娘ももうあと2年で娘も免許が取れるので、そのときはハスラーを譲る約束をしています。なので私はもう一度ヴィヴィオを探すか、それともカプチーノが復活するというウワサを信じて待ってみようかなとか、そんなことをなんとなく考えているところです(笑)」。

(写真左上)ヴィヴィオ時代から愛用しているMOMOのステアリングは、スクラップになる前に取り外したもの。(写真右上)リアワイパー代わりに取り付けられた猫の手のようなもの。実はこれ、しゃもじなのだそう。(写真左下)車載工具としてラチェット一式を積載。(写真右下)リアウィンドウに貼られたステッカーが、ハスラーオーナー同士の交流の多さを物語る。「ヴィヴィオと違ってオーナーも情報も多くてありがたいです」。