MOTORCYCLE

Motorcycle QuestionS(2019年12月号 No.103)

文/青木タカオ 写真/小野広幸

バイクに乗るから、服装はこうでなければならない。そんな諦めにも近い、マンネリ化したライダーファッションに警鐘を鳴らすファッションデザイナーがいる。老若男女、バイクの車種やジャンルを問わず高く支持されているMAXFRITZ(マックスフリッツ)の佐藤義幸さんだ。

「若い頃はアウトドアやミリタリー系の服を着てバイクに乗っていました。それしか選択肢がなかったので……。でも風でバタバタしたり、袖が風で上がってきたり不便で仕方がない。だから、自分でバイク乗りの“普段着”をつくろうって思ったのが始まりでしたね」

お洒落なバイクウェアブランドとして名を馳せるMAXFRITZ(マックスフリッツ)。その主宰・佐藤義幸さんは、東京都葛飾区にある本店の店先で淹れたてのコーヒーを飲みながらこう振り返った。20年近く愛されてきた中目黒から昨秋移転し、1年ほどが経った。ノンビリと穏やかな空気が流れる下町エリア。網とバケツを持って歩く小学生たちに「ザリガニ釣りかい?」と声をかける。すっかり地元のお馴染みの顔になった。そして、また思い出したかのようにインタビューの質問に答える。

「いま、ライダースウェアとして世に出ているものは、ほとんどがオートバイに乗るため“だけ”のものになってしまっています。僕がつくるのは“バイクにも乗れる”っていう服。つまり街を歩いたり、カフェやレストランに入っても違和感がありません」

もちろん、ライディングに特化したウェアも佐藤さんは否定しない。16 歳からホンダSL250 などに乗り、20 代になるとXLV750 やBMW R100 GSといった日本ではまだマニアックだったビッグオフローダーに乗る筋金入りのライダー。エンデューロや旧車レースにも夢中となり、車歴もドゥカティやモトグッツィ、ハーレーなどじつに幅広い。だから、安全性がいかに重要かも誰よりも熟知している。サーキットを走るときは当然レーシングツナギを着るし、オフロードライディングするときはプロテクターで身を守る。

「TPO(時、所、場合)を考えて使い分けられるように、ほとんどの製品はプロテクションパットを入れることができます。ポケットに見せかけたところにインナーパットをさり気なく隠すようにね。パットを入れたり外したりするのは、ユーザー自身が好みやTPOに合わせればいいんです」

佐藤さんは『バイク乗りの格好はこうでないとイケナイ』と、教習所などで擦り込む現状に憂いでいる。安全性は言うまでもなく重要だが、バイク乗りだってファッションを楽しむべきだと考え、それは自分自身だけでなく、見る者にも「ライダーって素敵だな」、「自分も乗ってみようかな」と広い目で見れば、モーターサイクルカルチャーの普及にも繋がっていく。

「バイク用ウェアにフードを付けたのは、ウチが最初なんですよ。発売すると『オートバイのことをまったく分かっていない人がつくっているんだ』って言われたものです。でも、今では当たり前になりました」

創立は2000 年。常識を覆す製品プロデュースは、敏感なライダーたちを中心に瞬く間に広まっていく。ファンは全国に増え続け、現在では北海道から九州まで12 店舗を展開している。

「ブーツもそうです。旧い英国車などに乗るとき、シフトチェンジカバーが右足にも欲しいと自分で感じたから付けました。今では珍しくありませんが、ウチがやり出すまでありませんでした」

菊池武夫をデザイナーとする『メンズ・ビギ』でファッションを究め、バイクに乗るための服が欲しいとマックスフリッツを立ち上げた佐藤さん。自分自身がライダーであるからこそ、アイデアは次々と湧く。

「見てもらえば分かるとおり、イタリアの小洒落たライダースからアメリカのアウトドア系まで、1つのブランドとしてはテイストが幅広いんですよ。さまざまなコーディネイトができるようになっています」

欧州車や国産、ハーレーなどアメリカンにも合わせられるモノがお店には整然とならぶ。メーカーだけでなく車種やジャンルも問わないが、いずれも品があって、大人が身に着けたいと感じる上質感も伴うのが人気の秘訣。女性からの支持も高い。

「ルーツになっている“元ネタ”がありまして、若い頃に自分がバイクに乗るときに着ていたアウトドアやミリタリー系であったり、フィッシング、ハンティング系がほとんどです。それらに対するリスペクトはもちろんありますが、そのままだとバイクに乗るには適しません。フォルムやカタチを尊重しつつ、撥水性のある素材を使ったり、内側に透湿防風フィルムを挟んだり、ウインドシャッターをきっちりするなど現代の技術と素材を用いて、ライディングのための機能をしっかり持たせてあります」

今季はフリースジャケットやジョガーパンツに、プロテクターを入れられるようにしてライダー用とした。普通に考えれば、もっともバイクに適さないものたちだが、佐藤さんにかかればその常識は通用しない。度肝を抜かされるプロダクトでありつつ、奇抜ではない。

「プロテクションはアウタージャケットに入るのがセオリーですが、インナーとなるシャツに入っていたって別にいいってことに気付きました。そうすれば、いつも着ているお気に入りのアウターでバイクに乗れますものね。こういうのを考える作業は発明家と同じなんだと思います。ファッションは発明ですよ!」

筆者が以前から欲しいと思っていた「CRウォームパンツ/MFP-2269」をこれを機に購入すると、裾上げと体型に合わせた調整を佐藤さんがしてくれるのであった。中綿を感じさせないスリムフィットだが、よりピッタリとしシルエットもキレイに。ミシンでスピーディに作業する職人技の姿は、思わず見とれてしまう。このように、ユーザーからの要望があれば、リペアはもちろんリサイズまで徹底的におこなうのは、ライダーの普段着をもっとお洒落にしてあげたいという情熱から。

MAXFRITZ代表
佐藤義幸

ファッションデザイナーという仕事の傍らでバイクをこよなく愛し、機能性とファッション性を兼ね備えた大人のバイクウェアブランド「マックスフリッツ」を主宰。本店を中目黒から東京都葛飾区に移転し、人情味あふれる下町ムードを堪能している。