MOTORCYCLE

Motorcycle QuestionS No.12
ライダーは皆ヒーローになりたいんだ。[前編]

クラウドファンディングサイト「Makuake」に突如登場したヤマハ発動機のプロジェクト。
参加者たちの手で作り上げていくという「FIST-AID」とは、いったいどのような取り組みなのか?
バイクはオワコンではなく、ライダーはヒーローになれると考える熱きライダーたちに話を聞いた。
(Moto NAVI 2020年12月号 No.109に掲載)

文/青木タカオ 写真/高柳 健

自然災害が相次ぐ中、安全を心がけるライダーだからこそできることはないか。ヤマハ発動機の有志たちがそう考え、立ち上がったプロジェクトが“防災ライダー FIST-AID”だ。自然災害の猛威を前に、バイクメーカーだけでできることは限られている。ライダーひとりひとりの経験や知識を分かち合えるきっかけをつくり、志あるライダーが安心して活躍できる文化を、みんなの力を合わせて育てていきたいとスタートした。

ホームページ上にサイトが公開され、そこにはメーカーならあるはずの製品はどこにも見当たらない。目標金額500万円に設定した

クラウドファンディングがあり、若干の戸惑いを感じつつも、コミカルなイラストで紹介される「FIST AID 100Tips」に引き込まれ、タメになるなと感心しつつ、ひとつずつ読み込んでしまう。防災意識があまり高くない人へまずアプローチしたいという狙いから、SNSで公開する防災テクニックは意図的に馴染みやすいコミック調にしている。
「慈善の皮をかぶった売名偽善者が!」と言われる覚悟はできているという。しかし、大切な命を救う力に少しでもなれるなら、これほどライダー冥利につきることはないと、志をともにする者たちが所属や世代を超えて集まった。

 

意見を出し合ううちに、バイク乗りたちの心の奥底に、ヒーロー願望のようなものが少なからずあるのではないかということに気づく。自然災害時に、寸断された道をオフロードバイクで乗り越え、山奥に孤立した人々に情報を伝達したり、勇気づけたり……。また、洪水で水浸しになった町の中を水上バイクで救援活動する姿がテレビに映し出され、話題になったことも記憶に新しい。
その一方で、動画サイトでは無謀な運転をするバイク乗りを揶揄する声も聞かれ、ライダーがカッコイイものではなくなってしまっている。

クリエイティブ本部の小川岳大さんは、すり抜けするバイク乗りをクルマの運転席から「イカれてるなぁ」とボヤく投稿動画を見て、どうにかして「オートバイはイカしてるなぁ~」と言われるように変えていかなければ、バイクカルチャーの将来は明るくないと考えた。バイクブームを知る世代にはオートバイは身近な存在だが、多様化する若者の嗜好とは隔たりがあるのもまた事実。ブラウン管の中で、仮面ライダーなどバイクに乗って悪者を倒すヒーローが子どもたちの憧れであったことは、若い世代では共通認識ではなくなってしまった。しかし、何かあったときに頼もしいバイク乗りなら「イカしてる」と思われるはずで、ライダーの地位も向上するのではないか。小川さんはこう言う。「共感を呼ぶのは、映画のヒーローのように特別なスペックを持ったスーパースターではなく、自分たちと同じ一般の人が懸命に動くところにあります。2017年10月の米国カリフォルニア山火事では、自前のトラックをボロボロにしながら人命救助した男性が称賛され、有力誌の“ 世界にもっとも影響を与えた人物”にレディー・ガガを抑えて第1位に選ばれました」

クリエイティブ本部西村慎一郎さん

クリエイティブ本部仲村拓哉さん

クリエイティブ本部小川岳大さん

ベテラン上級ライダーでもある西村慎一郎さんや仲村拓哉さんも、「“いざとなったら役立ちたい”といった願望を持つ人が、バイク乗りには多いのではないか」と感じている。少なからず自分たちもそうだと言う。しかし、実際の災害現場では、レスキューのための知識や技術を身につけていなければ、役立つどころか救援の邪魔にもなりかねない。まず、静岡市オフロードバイク隊が主催し、自衛隊や三島市オフロードバイク隊も参加するレスキューライダーの合同訓練に密着し、話を伺った。

後編に続く