MOTORCYCLE

いまこそやりたいブーツメンテナンス!

文/日越翔太(Moto NAVI) 写真/三浦孝明 取材協力/山憙堂 鈴木 明さん

同じレザーブーツでも、ライディングに向き/不向きはある

安全とか危険とかそういうことを置いておいて、極論を言えばスニーカーでもバイクには乗れるし、なんならサンダルでだって乗れないわけじゃない。ただ、ジェントルな大人のライダーを自負するのであれば、高い美意識を持ってバイクに乗りたい。もしものときのために安全装備を、なんていうのは建前でいい。別に真面目ぶるわけではない。単にバイクに乗るうえでいちばんカッコいいスタイルだと思うからブーツを履く。それでいいと思う。

しかし、ブーツにとって、ライダーに履かれるというのは必ずしもいい環境ではないのは自明のことだ。水濡れ、エンジンの熱、飛び石だってあるだろうし、左足のつま先~甲はシフトペダルで傷む。クセによってはどちらか一方のソールだけ減りが早い、なんてこともあるはずだ。そんな過酷とも言える環境で奮闘するブーツを、ライダーはどう愛でていけばいい?

そんな疑問をぶつけるべく、モトナビ編集部は東京都八王子市にあるブーツショップ、山憙堂を訪問した。ソール張替えをはじめとした各種修理はもちろん、ユーザーの足に合わせたオリジナルのコンフォートシューズなども手掛ける同店の店主であり、ホンダCD125Tを駆るライダーでもある鈴木 明さんに話を聞いた。

「ブーツをはじめ、レザーアイテムのメンテナンスで大事なことは、“失敗しないようにすること”です。性能がよくても使い方が難しいシャンプーや適量がわかりづらいオイルなどで失敗してシミを作ったりするのであれば、ごく一般的なケア用品を使ってメンテナンスするほうが安心でしょう。さらに使うときは一度に大量に塗ったりせず、薄く薄く塗っていく。シミになるリスクをできるだけ減らすのです」。

そう説明しながら実際に手入れしていく鈴木さん。ケア用の固形オイルの表面をスポンジで軽くなぞり、塗ったか塗ってないかくらいの薄さで塗り拡げていく。感覚的にはわれわれ素人がオイルアップするときの半分も塗っていないように見える。

「ワークブーツの世界は特別で、ソールを張り替えるにしても、構造を把握している人とそうでない人では、やはり仕上がりに違いが出ます。なので、必ずしもベテランだから上手に修理、メンテできるというものではないんです」。

そう話してくれた鈴木さんに、興味本位でライダーに合うブーツを聞いてみた。

「革や顔料の質を考えると、やっぱりレッドウイングのバランスがいいと思います。チペワなどと比べると、レッドウイングって堅いんです。バイクで使うと考えると、その堅さが活きてくるんです」。

これはあくまで鈴木さんのご意見。「履き込む」という言葉があるように、ブーツを愛していけば、きっとほかの何よりも自分色に染まってくれる。そうなればもう、これ以上頼りになるものはないのだから。

モトナビ編集部ヒゴシの私物であるカドヤのライドロガーブーツ。日常生活ではもちろんのこと、もっと味を出したいと友人宅のペンキを塗る際に履いていってペンキまみれにしたことも。夏の間は履いてなかったので、すっかりカサカサに……。

まずは紐をほどくところからブーツメンテは始まる。なお、こちらのブーツの場合、紐が完全に抜けない仕組みになっているので外せるところまで外す。その後、レザー用シャンプーをスポンジに取って汚れ落とし。これだけで黒が引き締まり、ぐっと精悍に見えてくる。そのあとはレザーの色に合わせてオイルを入れていく。ここで注意したいのは、オイルの種類と量。レザーのお手入れ=ミンクオイルというイメージがあるが、ミンクオイルは革を柔らかくしてしまうので、ワークブーツの手入れにはあまり向かないという。シャフト(ブーツの筒の部分)がクシャッと潰れているエンジニアブーツやペコスブーツはオイルの入れすぎで柔らかくなってしまった証拠。そしてものの10分でこの輝きを取り戻した。

メンテナンスアイテム/黒系のブーツの場合

① ドイツ生まれの革用ケミカルブランド、「コロニル」のレザーソープ。なーんの変哲もないレザーソープで、アマゾンや楽天市場などのネット通販サイトならもちろん、ちょっとしたホームセンターなどでも簡単に見つかるはず。「特別なものを使うよりも、誰でも手に入れられる一般的なケミカルを使うほうが安心して使えます。僕たちプロでもお客さまからお預かりしたブーツを扱うので、失敗することのないものを使いたいんです」。価格は¥1,500。
② オイルは同じくコロニルのプレミアムディアマントを使用(現在は廃盤。後継品は③の「1909シュプリームデラックス」)している。こちらも一般的に流通していたもので、価格も③の「1909~」で¥2,800ほど。やはり誰もが手に入れやすいものを使うのがポイントだという。有機溶剤を使っていないので、ほんのり香る自然な香りが特徴。
④ 蜜蝋がベースとなった、アメリカ生まれの防水ワックス、「スノーシール」。革を柔らかくすることがないので、ライディングブーツに最適。市場価格は¥1,500程度。

メンテナンスアイテム/茶系のブーツの場合

① これまたコロニルの防水スプレーである「カーボンプロ」を愛用している鈴木さん。「防水スプレーは安物じゃダメです。高いものを使ってください。100円ショップにも防水スプレーはあるんですが、石油系の溶剤なので革にダメージを与えます。合皮だと溶けてしまうこともあるので注意してください」。ちなみに高いもの、と言ってもこのカーボンプロで¥2,400程度。数万円から数十万円するレザーブーツの値段を考えると、ここでケチってしまうのはいただけない。メンテナンスしようとしてダメージを与えてしまうなんて、本末転倒の極みだろう。なお、鈴木さんいわく、レザーケアのアイテムはドイツ製がオススメとのこと。
② テレビの通販番組などでもおなじみのラナパー。¥3,000ほどで購入でき、質もいい。定番には理由があるということか。
③ 革の色は違えど、SNO SEALは鉄板ケアアイテムのひとつ。
④ 防水スプレーをもう一種紹介。こちらの「1909シュプリームプロテクトスプレー」は革に撥水性を与えるフッ化炭素樹脂に加え、革を保護し、栄養を与えるシダーウッドオイルも含む。撥水ついでにケアできるなんて、こんなラクなことある? もちろん石油成分は含まないので安心だ。
⑤天然成分100%のレザークリーナー、「エム・モゥブレィ プレステージ」。柑橘系の香りが特徴。日本製で¥2,200程度で販売されている。

明るい色でも暗い色でも、基本的なケアは変わらない。ただ、明るい色はオイルのシミができやすいので、特に塗りすぎに注意が必要だ。誰しもブーツデビューしたころはムダにオイルを刷り込み、磨きまくった記憶があるだろうけれど、塗り過ぎは革の呼吸を阻害するとともに、オイルの成分によっては型崩れの原因にもなってしまうので気をつけたい。

向かって右(左足)がビフォー。昨冬あたりにオイルを入れた記憶があるが、それ以降は何もしていない状態。見るからにカサカサだ。向かって左(右足)と比べるとその差は一目瞭然。黒い革がきちんと黒くなるだけで男前度が急上昇した。

SHOP INFO

山憙堂
東京都八王子市万町34-1
11:00~19:30 木曜および第1、4日曜定休
050-340-94669/090-9804-7991
sankidoo.com