MOTORCYCLE

すべては「THE WILD ONE」から始まった。

1本の映画がデニムをライダーには欠かせないものへと変えた。

文/高梨達徳(Moto NAVI) 写真/高柳 健 語り手/澤田一誠(FAKEα)

1953年にアメリカで公開された1本の映画が、それまで作業着という認識が強かった
デニムパンツを、現在でもライダーズファッションには欠かせないアイテムへと変えた。
今もなお色褪せないその魅力を、愛好家である古着屋店主の澤田一誠氏に聞いた。

深いインディゴブルーのデニムパンツに、ジャストサイズなダブルのレザーライダースジャケットを組み合わせ、大勢の仲間を引き連れて颯爽とトライアンフで駆け抜ける。1953年にアメリカで公開された映画

「THE WILD ONE(邦題は乱暴者)」で、マーロン・ブランドが主演を務めたジョニーという1人の若者のコーディネートが、現在でもオートバイに乗る際の基礎的なファッションスタイルと言えるだろう。

公開当時のオートバイ乗りは戦争から帰還した軍人たちが多く、危険と隣り合わせの生活をしていた彼らは、単調でつまらない日常をきらい、仕事もまともに勤まらなかった。そんな輩たちがスピードに高揚感を求め、徒党を組んでモータサイクルギャングのようになっていたと言われている。

1947年にカリフォルニア州の小さな町ホリスターで行われたオートバイのレースイベントには、多くのギャングたちが集まり暴動を起こした。この時撮影されたビール瓶に囲まれたオートバイの上に寝そべった若者の写真は、雑誌に掲載され社会問題となった。THE WILD ONEはこの事件を原作にした小説を元に製作された。

21歳のジョニー役を演じたマーロン・ブランドはこの時20代の後半で、数年後に銀幕へ登場するジェームス・ディーンやエルビス・プレスリーとは違い、決してスマートと言える体型をしていなかった。ワタリの太い当時のLEVI’S 501XXをウエストのサイズで合わせるとどうしてもパンツがばたついてしまう。

そこで、サイドを開きふくらはぎに合わせて裾を詰めているのだ。ジャストサイズのライダースジャケットも中綿を抜いているのが見えるシーンがある。配給会社のコロンビアとしては反社会的な内容だったので、さっさと撮影を済ませて公開してしまいたかったのか、撮影期間は3週間と短く、オリジナルの衣装を用意するほどの制作費をかける様な作品ではなかったのだ。すでにスターへの階段を上っていたマーロン・ブランドも、数ある主演作品のひとつで特別な思い入れもなく、「ライダースジャケットやデニムパンツが不良の象徴として、ここまで後世で語られる映画になるなんて思っていなかった」と自伝に残している。

では、この映画が作業着だったデニムパンツをライダーの必須アイテムまで押し上げた要因は何だろうか。それは、出演者たちの演技を超えたリアルさにあるのではないかと思っている。ライバルチームのボスを演じたリー・マービンをはじめ、のちに名俳優となる若者が多く出演しているが、オートバイチームのメンバーには、多くのモーターサイクルギャングが採用されている。走り始める時のアクセルターンや街中でのスラローム走行は、その中でも腕自慢たちが進んで取り入れていた。作中に出てくるトライアンフやハーレーダビットソンも細部までカスタムされているモデルも多い。

ファッションのスタイルにも数多くのこだわりが詰め込まれていて、無精髭に軍の払い下げを合わせ、ゴーグルを逆向きに身につけるデタラメな格好は、当時の時代背景を映し出すリアルな描写だ。ジョニーたちのチームB・R・M・Cのロゴも、既存チームのものを参考にして作られていた。ライダースファッションの代名詞とも言えるデニムのロールアップにエンジニアブーツを合わせるコーディネートは、未舗装の道路を走り、エンジンオイルをにじませながら走るオートバイに合わせ、デニムを汚さずにレザーのブーツを拭き取るだけで足元の手入れが済むことが始まりだと言われている。このスタイルは1940年代後半に若者がワークウェアを普段着として身につけはじめた時には、すでに出来上がっていて、ホリスターの暴動でも目撃されている。これは推測だが、映画の制作側の人間によっぽどのバイク好きか親しい関係者がいたのではないかと考えると面白い。

アメリカでは公開直後から大ヒットを続け、街中にはデニムを身につける若者が増えたというが、社会的な影響力を恐れてイギリスでは1960年代までこの映画が上映されることはなかった。だが、それまでに多くの情報は海を渡り多くの若者を魅了した。デニムパンツだけではなくレザージャケットも人気

となりイギリス国内でもダブルのライダースなどが作られるようになった。これが独自に進化してロッカーズスタイルが生まれたとも言われている。

日本ではそれほど本国とタイムラグなく公開され、流行に敏感な若者はアメ横などで軍払い下げ品のデニムなどを買い求めていたが、ジーンズがファッションアイテムとして一般的になるのはもう少し後のことで1970年代のフレアパンツと言われている。

プライベートでもオートバイを所有していたマーロン・ブランドは、この時製作された自分の体型に合わせたパンツをとても気に入っていたそうで、こちらも自伝の中で語られている。主役が身につけるため、どこのメーカーがわからなくするためにバックポケットのステッチが外されているなんて逸話も残っている。ジェームス・ディーンは口には出していないものの、トライアンフにまたがりレザージャケットにLEVI’Sを組み合わせて、ジョニーと似たようなポーズの写真を残しているほどこの映画をリスペクトしていた。

内容的には平凡なよくあるストーリーだが、オートバイ好きを魅了するすべての要素がこの映画には詰め込まれている。

1953年に公開された映画。無法者のオートバイ乗りが小さな田舎町で繰り広げる一昼夜の出来事を描いている。主演はマーロン・ブランド。日本のオートバイ乗り達にもその影響は大きく、今でもジャケット違いのDVDなどが販売されている。

主役であるマーロン・ブランドが身につけているのは、LEVI’Sの501XX。ただ、メーカーがわからないようにするためか、バックポケットにあるステッチの糸が抜かれている。折り返しのセルピッチを見ると既製品よりも太く、下半身が立派な彼の体型に合わせて、膝から下をサイドで開いてワタリを詰めているのがわかる。

バックポケットの隠しリベットや革パッチなど、時代によって仕様が少しずつ変更されている。片面タブとは、LEVI’Sを象徴するポケットについた赤いタブのプリントのこと。この年代のモデルは片側だけにブランドロゴがプリントされている。

FAKEα店長 澤田一誠

テレビや雑誌で、鑑定をするなど、ビンテージに精通している。「THE WILD ONE」の愛好家としても知られ、主人公が身につけるライダースジャケットの精密なレプリカモデルを販売するほど。愛車はトライアンフ・ボンネビル。

FAKEα

原宿にある老舗古着店。レザーやデニム、ハワイアンシャツなどビンテージアイテムの品揃えは日本随一。店内には、「THE WILD ONE」に関するグッズが数多く展示されている。

SHOP INFO

東京都渋谷区神宮前1丁目8−21 ラ・レンヌ2F
03-3404-0168
営業時間 11:00〜20:00