ある20代ライダーの肖像
若者のバイク離れが叫ばれるいま、
その当事者である20代のライダーはいま何を考えているのか?
東京・浅草の老舗レザーブランド、KADOYAで働く20代のライダーに話を聞いた。
※こちらの記事はMoto NAVI No.90(2017年10月号)に掲載されたものです
文/日越翔太(Moto NAVI) 写真/三浦孝明
卒業までは1年あったけど、もうチャンスを逃せなかった。
26歳/レザー職人、佐藤康平さん
2013年に入社したのでいま5年目です。高校卒業して1年フリーターやって、服飾の専門学校を経てカドヤに入りました。フリーターだったころにもたまたま一度カドヤの求人募集を見つけたんですが、まごまごしているうちに締め切られてしまって……。もともとカドヤに興味があったので問い合わせてみたもののダメだったので、とりあえず勉強しようと専門学校に通い始めて1年後、2年生になる直前にまた募集が出たんです。受かれば学校を辞めるつもりで面接に行ったら運良く採用してもらえることになったんですけど、工場長に、「ちゃんと卒業してから来てくれ」って言われて1年待ってくれることになりました。ありがたかったですね。
カドヤを選んだ理由は単純にカッコイイなって思ったから。革ジャンも職人さんもです。バイクには16から乗ってたけど、当時は革ジャンなんか頭にもなくて、せいぜいもうちょっと大人になってからって思ってました。でも、高校卒業するころに友達が革ジャン買ったって聞いて興味が出てきたんです。うちのお父さんもバイクに乗るので、革ジャンならどこがいいか聞いたら、「カドヤじゃね?」って。そのとき初めてカドヤの存在を知ったんですよ。それでここ(カドヤ本店)に買いに来たんです。高校卒業した次の日で、いろいろ説明してもらって買ったのをよく覚えてます。それが人生最初の一着でした。革ジャンならなんでもいいわけじゃなくて、やっぱりカドヤにかぎらず、ライダー向けのやつが好きですね。ゴリゴリに堅い革ジャンを毎日着て自分に馴染ませていくのが趣味なので(笑)。
バイクはお父さんもお母さんも乗っていたし、家にいつもあったから、いつか自分も乗るんだろうってなんとなく思ってました。地元は東京の青梅なんですけど、私立高校だと免許取れないとこもあるって聞いてたんで都立高校に通ってました。
最初に乗ったバイクは家にあったモンキーで、お金貯めて自分で買ったのはジェイド。次に買ったのがいま乗ってるCB1100です。W800と迷ったんですけど、四発がいいかなと思って。クラシックなネイキッドが好きで本当はCB1100F欲しかったんですけど、古いのは維持が大変だろうなぁと。いじるのは苦手なんで……(笑)。お父さんはCB750Fとかいろいろ持ってます。突然NSRを買ってきたり、じいちゃんちにあった昔乗ってたっていうDTを直して持って帰ってきたりしてますね。
仕事の話に戻ると、工場にはいま14人の職人がいて、40代を中心にあとはもっとベテランの職人さん。最初は師匠みたいな方について、バッグのストラップのような小物から作り始めるんです。学校で習ったのは基本の基本だし、そもそも扱ってたのが生地、布で、革に触れることもなかったですから。その後4〜5ヵ月くらいでバッグ本体を縫えるようになり、1年くらい経つと革ジャンを縫わせてもらえるようになるんですけど、いまでも革の質を見極めるのには苦労してます。
革にはそれぞれシワが寄るところ、寄らないところがあるんですけど、それを裁断前に確認してどの部位をどこに使うかを決めるんです。一般的におしりの革は質がいいと言われるんですけど、それだけを真に受けちゃうとシワだらけのものができることもありえます。
縫製でも何でも、師匠は言わずもがな、やっぱりみんな上手いです。追いつけ追い越せじゃないけど、肩を並べられるよう頑張ってます。ただ、その技術を見て盗むのには限界があるんで、最近は質問攻めにしてます。めんどくさがられてるのかもしれないですけど(笑)、そうでもしないと追いつけないので。自分なりの目標や夢がないわけじゃないんですけど、いまはまず、先輩方に追いついてからの話かなぁと思っています。
そうそう、最近は乗る機会が減ってるみたいですけど、実はじいちゃんもバイクに乗ってるんですよ。よく実家に乗って来てました。いま77歳でW1に乗ってて、こないだも車検通してきたって言ってました。そんなところからも、僕は影響を受けてるのかもしれません。親子でツーリングはあっても、3世代ツーリングってあんまり聞いたことないし、やってみようかな(笑)。
SATO KOHEI
東京・浅草にある老舗レザーウェアブランド、カドヤに勤める26歳(17年8月当時)。革ジャンに興味を持つきっかけになった友人(カワサキGPZ900R乗り)とはいまもたまにツーリングを楽しんでいる。