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北のボ日記 #14「ボルボS80西へ」

いろいろあったボルボS80との暮らしも、まもなく一年。
トラブルは一通り潰せたはず……なので、
フェリーでも使って、遠くへ行ってみようと思った。

文と写真/淺川覚一朗

走りも、佇まいも、何もかもが素晴らしいけれど、走行距離と経年劣化的に正しく色々ダメになっていたオールドレディー、2007年式ボルボS80との暮らしも、早いもので一年が経とうとしている。エンジンが止まったり、冷却水が漏れたりといった、車が動かなくなるようなトラブルは、さすがにひととおり潰せたかな、というところまでやっと辿り着いた。それなら、ちょっと遠出してみようか──それも、これまで出かけたオホーツクや函館よりも遠くへ。

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北のボ日記 #5「南へ走れ、ドライの道を!」

というわけで、ふと思い立って小樽のフェリーターミナルにまで来てしまった。
じつはこの旅で、決まっているのは京都・舞鶴行きのフェリーに乗ることだけ。舞鶴から先のホテルも何も予約していない行き当たりばったりの旅だけれど、まあどうにでもなるだろう。

ライダーたちの排気音を見送ってからしばし、クルマの乗船が始まる。大きな船倉に誘導されて、全国各地のナンバーをつけた道連れたちと整列していく。「鯨に飲み込まれたピノキオみたいだな」と、子供のようなことを考えた。

自動車甲板に車を停めると、車内で部屋着に着替える。もちろん、アンダーアーマーやアディダスのおしゃれジャージなんかじゃない。ユニクロやしまむらの組み合わせで、いかにもなオッサンの出来上がり。足元もクロックスに履き替える。
なぜ客室で着替えないかって? 船倉から移動するときの荷物は、少ない方が楽だし、リラックスの時間は長ければ長いほうが楽しめるのが船旅、というものだ。
ただし、頭のてっぺんからつま先のサンダルまで脱力モードで、さらに気の早いことに、大浴場を楽しみにタオルを首から下げていたりすると──乗船口で、船員さんに丁寧な案内を受けられなかったりはする。 「チケットを拝見します」と声をかけられ、キャビンの場所やサービスを案内されている上品そうな夫婦や、親子連れを横目に見ながら、傍目に「プロ」だと判断された僕は、温くスルーされ、ひとりでそそくさと自分の船室に移動するのだ。
ここでいう「プロ」というのは、日本の物流の最前線の力持ち、長距離トラックドライバーの人たちだったりする。なので、Tシャツにスエットパンツ、素足にクロックス、なんて姿は、フェリーでのドライバーさんの「コスプレ」といったところか。

そして、この旅のもうひとつの目的が、このタイヤ「ミシュラン CROSSCLIMATE 2」のロードテストだった。このタイヤ、いわゆるオールシーズンタイヤの最新世代のものだ。
ひと昔前なら、新車の装着タイヤがオールシーズン(あるいはランフラット)なら、試乗レポートは「通常の夏タイヤに履き替えれば、あるいは」といった表現が定番になるくらい、走りや快適性には期待できないものだったけれど、近頃は、事情が違うらしい。
しかしこのタイヤ、国際基準をクリアしてスノーフレークマークが付いているスタッドレスでもあるというから、ドライ路面での性能には正直「?」と思ってしまいたくなる。しかし、グリップやロードノイズの面では、同社のエコタイヤを上回る性能だというから、じつに興味深い。
ならば、ノープランで、どこまでもドライの道を走ってみよう。舞鶴へ、そして西へ。

小樽発舞鶴行きのフェリーは、深夜、日付が変わる頃に出港して、翌日の夜遅くに舞鶴に入港する。ほぼ丸々一日を過ごす船内の楽しみが、大きな湯船のお風呂と、三度の食事だ。

かつての新日本海フェリーの食堂はカフェテリア形式で、小鉢やメインの料理を自由に選べるのがうれしかったのだけれど、コロナ禍の影響か、ほとんどのメニューがトレーにお決まりで並んだ定食スタイルになってしまっていた。もちろん、焼き魚も、ジンギスカンも、単品のサーモンのマリネも……美味しかったのだけれど、どの皿にしようかなあ、というワクワクは無いわけで、それは本当に寂しいことだった。

舞鶴までの道中、天候は本当に穏やかで、波の揺らぎを感じることもほとんど無いほどだったけれど、雲が多かったことだけが残念でしかたがない。
そして航行中、どうして船首側のラウンジにいるかというと……ケータイの電波が無い、遠い、Wi-Fiが欲しい(無い)
比較的電波を掴めるタイミングがあるのがこのラウンジだったり、船尾のオープンデッキだったりしたのだけれど、船室にいると、まず電波は掴めない。
いやそんな、一日くらいデジタルデトックスでいいんじゃない?──然り。でも、今日泊まるホテルも押さえていない行き当たりばったりの旅だから、少しばかり慌てて、焦ってしまうのであった。
そんなふうにあたふたしながら、日本海に沈む夕日を撮る機会を狙っていたけれど、期待していた朱色は雲の層に阻まれて、垣間見のようになってしまった。

そして、舞鶴。航行中のフェリーの上から、苦労して捕まえた電波でやっと予約した舞鶴のホテルは、港の入江沿いにあった。
駐車場から、小樽から乗ってきたフェリーが見える。満艦飾のように美しかった。

そしてこの画像は、到着の翌朝、舞鶴の海軍遺構「赤れんがパーク」で、「カーグラ」や「NAVI」の長期テスト風なカットを意識して撮った一枚。
紹介するタイミングが前後してしまったが、スタッドレスから履き替えるときに選んだホイールが、イタリアの「MAK」というブランドの「ストックホルム」というモデル。
切削加工と黒のコンビのデザインはいかにも今風で、S80のデビュー年代とはズレるのだけれど、ボディカラーの黒と適度に配されたクロームパーツの感じと、よく似合っていると自己満足している。

MAKホイール一覧(阿部商会)
https://abeshokai.jp/mak_archives

──次回は、舞鶴での滞在と、次の目的地のエピソード。お楽しみに。

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著者紹介
淺川覚一朗
じつは旧「NAVI」当時から隅っこで書き続けている古株。「Moto NAVI」が「バリ伝」「ララバイ」を特集したときには水を得た魚になったサブカル系ライター。現在は“バイクな本”専門の書評連載「Moto Obi」を担当。一方で、北海道美唄市の「地域おこし協力隊」として同市の街おこしや情報発信に取り組んだり、地元紙「空知プレス」にコラム「地域おこしのタネ」を連載中。