CAR

北のボ日記 #17「オイルSOS」

旅の途中であろうと、しっかり
「欧州車的正しさ」を発揮してきたボルボS80。
……オイル問題、ここにきて再発か?

文と写真/淺川覚一朗

松山道、高松道で四国を縦断し、本四連絡橋で兵庫へ。明石海峡大橋の大渋滞に巻き込まれ、加東市のホテルに着いた時には深夜。寝るだけの一日を終え、翌日は丹波篠山市で旧友に再会。
そして、兵庫から東京まで、一気に駆けるその夜に、事件は起こった。

北のボ日記 #16「あふれる熱い涙」

──新宿よ、私は帰って来た!

渋滞の度にSAでのんびりしたり“諸事情”があったりで、東京都内のホテルに着いたのは夜遅く。近所の飲食店も、もうラーメン屋くらいしかやってない。でも、温かいものは食べたいので、家系ラーメンをガッツリ食べた夜が明け、朝から早々に動き出す。これも“諸事情”で。
平日の午前中、まだそれほど人の多くない東口駅前の交差点を眺めていると、新宿がホームタウンだったころ、連日のようにゴールデン街や2丁目で飲んでいたころを思い出し、感慨深い。北海道で暮らすようになった今、遠くなったのは、物理的距離だけではないことを思い遣る。

朝食は「富士そば」の、もりそば。どうってことのない、いわゆる駄蕎麦なのだけれど、これがまたしみじみ美味い。これは、地方移住者あるあるなのだけれど、チェーン店の味がどうしようもなく懐かしくなってしまう瞬間がある。とにかく物理的に全く存在しない店が多いからだ。
北海道なら、セブンイレブンには全く困らないし、マクドナルドもそこそこある。しかし、ロイヤルホストはほとんど無い。デニーズは、無い。そして富士そばも、無い。

そしてなぜ、ゆっくりできるはずの朝から出かけているかというと、のっぴきならない買い物があるからで、それも“血の一滴”の話だったりする。

──エンジンオイルが、足りない

昨日は、名神から入った伊勢湾岸道路で事故渋滞に見舞われたものの、新東名に入ってからはスムーズな道行きで、新しい規格の高速道路の恩恵を存分に受けて移動していたのだけれど、岡崎、そして新城を過ぎたあたりで、そのメッセージがメータークラスタに出た。

──オイルレベルテイカ

北のボ日記 #16「あふれる熱い涙」

これは、まずい。エンジンオイルが足りていない。まさか、漏れている? エンジン音も、心なしかノイズが多いような気がする。ロードサービスを呼び、積載車でドナドナされるヴィジョンが頭の中にバーッと浮かんでくる。
とにもかくにも最初のSAに転がり込む。NEOPASA浜松の建物のピアノの意匠の美しさも、ちっとも心に届いてこない。
エンジンと、心と身体をクールダウンさせるのに、一杯のコーヒーを飲む。
そして、オイルゲージのチェック。

──いや、これ、入ってますよね?

ボルボ S80 3.2のゲージのデザインはちょっと変わっていて、上下の薄い線の間に、XX印が三列。一番下のXXに届いている。軽くクールダウンしてこの範囲なら、量的には問題ないはず。実際、エンジンを始動しても警告メッセージは出ない。シャシー下を覗き込んでみても、オイル染みも塗れも見当たらない。
適正範囲内に収まっているのだから、ここはひとまず出発しよう。警告が出たらまたそのとき考えよう──でも、また出たらどうしよう……とグルグル思いながら、PASAにまめに寄りながら移動する東京までのおよそ200キロ超。いや、長かった。そして、メッセージは二度と出なかった。

この件、ホームドクターのエム氏に、夜のうちにメッセージを送っておいた。朝早々に届いた返事に曰く、

「あるいは、走行中にミニマムの線を越えたのかもしれません。あのエンジンはオイルにシビアなので、その時点でメッセージが出た可能性があります」

翌朝、ホテルの駐車場の床にもオイルは落ちていない。ゲージで見ると、オイルのかさは真っ当に増えていたような気もする。
オイル交換から7,000キロと少し。欧州車的に正しくオイルが消費されていたのかもしれない。
マニュアルによると、こういうときはオイルを0.5リットル足せという。しかし、ここで困ってしまうことになった。
というのも、本来このクルマのオイルのSAE粘度の指定は0W-30なのだけれど、ホームドクターの「テックプラス」には取り扱いがなかった。「近いのは5W-30か0W-40です」と言われたとき、リアルに「バナナで釘が打てる」北の大地で、耐寒温度を上げることはしたくなかった。

テックプラス
s-hokusyo.com/modules/techplus/

ところがこの0W-40が、量販店にはなかなか見当たらないのだ。また、携行できる1リットルの缶か樹脂のパッケージ、という条件付けも選択肢を少なくしている。
なんと、旧「NAVI」の「エンスー新聞」でもおなじみ、輸入車はもちろんビンテージカーなども御用達のオートバックス代官山店にも無い!(正確に言うと、モチュールのべらぼうな値段のものならあった)
何軒かの空振りの後、電話作戦に切り替える。やっと見つけたのは、横浜。「スーパーオートバックス十日市場店」だった。
ともあれ、別銘柄のオイルを混ぜること自体が禁じ手なのだけれど、ここは緊急避難。せめて粘度を合わせた化学合成油を入れてやることにした。

スーパーオートバックス十日市場店
https://maps.app.goo.gl/mapJkW62isniXRVM8?g_st=ic

AAA / TRIPLE A(トリプルエー) MAX power 0W-40
http://www.aaa-oil.net/original.php

同じ横浜とはいえ、ついでという距離でもないのだけれど、せっかくだから中華街に足を伸ばすことにする。
この10年来のお気に入り、「青葉 新館」で魯肉飯を食べる(ビールが飲みたくなるのを我慢ガマン)

青葉 新館
https://maps.app.goo.gl/2nrXNVAkXg3TnSwc8?g_st=ic

東京、横浜での小休止が終わると、いよいよ北海道に戻る日がやってくる。行きは「艦これ」に上陸して、帰りは「ガルパン」から出港。大洗から苫小牧への船旅。そして、このツーリングも終わる。

追伸

天気にだけは恵まれていたこのツーリングで、やっと通り雨が降ってくれた。
養生の終わったガラスコーティングの、雨もよいのときの親水性の具合を初めて目の当たりにしたけれど、このままコンビニの駐車場から走り出したあと、撥水コートよりも水切れが早い印象があるのは、ちょっとしたパラドックスだと思う。

北のボ日記 #12「ガラスのコーティング光る時」

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著者紹介
淺川覚一朗
じつは旧「NAVI」当時から隅っこで書き続けている古株。「Moto NAVI」が「バリ伝」「ララバイ」を特集したときには水を得た魚になったサブカル系ライター。現在は“バイクな本”専門の書評連載「Moto Obi」を担当。一方で、北海道美唄市の「地域おこし協力隊」として同市の街おこしや情報発信に取り組んだり、地元紙「空知プレス」にコラム「地域おこしのタネ」を連載中。