キミとふたりで星を見に行く。
普段ワガママを言わない娘が「星を見てみたい」と言ってきた。それじゃあちょっとドライブを楽しみながら、満天の星が望めるとっておきの場所に連れて言ってあげよう。 (ナビカーズ2019年3月号 No,40)
text_TATSUNORI TAKANASHI(NAVI CARS) photo_SHOTA KIKUCHI model_YUZU KOGO,NOBUYUKI KOGO
授業で習って以来、娘は星に夢中だ。
国語の授業で宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を読んでから、娘は星に夢中だ。時間があれば、星空図鑑や星座にまつわる本を読みふけっている。そんなある休日の午後、いつものように静かに読書を楽しんでいると思ったら、突然「星空を見に行きたい」だって。キミは夢中になると、いつもそれしか見えなくなるね。それなら、ちょっとふたりでドライブでも楽しみながら、満天の星空が見える場所を探しに行くとしようか。
二人でドライブなんて久しぶりだな。
高速を走り、深いトンネルを抜けて大きな橋を渡ったら、海沿いを走る気持ちのいい道に出た。気がつけば陽は西に傾き始めている。ちょっとした飲み物や食べ物を買い込んだら、この道沿いで星空がよく見えそうな場所を探してみるとしよう。キミは休憩のたびに本を開いては、今夜見えるかもしれない星座を調べてる。やがて港町を過ぎて坂道を下ると小さな海岸を見つけた。ちょっとした崖に囲まれているから、街の明かりは見えないはず。
太陽がもう少し沈んだら暗くなり始めるよ
あたりが暗くなり、遠くの突堤にある外灯に明かりが灯るころ、頭上には紫色の雲が流れてきた。トマトが入ったサンドイッチと角砂糖入りの甘いミルクで満たされた僕らは、サンルーフから頭を出した。海から後ろの丘に向かって、強い風が吹き始める。厚い雲はみるみる流されていき、オレンジ色の光は、少しずつ西の空に吸い込まれていく。空一面が黒に染まる頃には、雲は全て流れて東の空にオリオン座が輝いていた。
キミはいつまで、こうやって出かけてくれるだろうか
夜が更けていくにつれ、肉眼で確認できる星の数が増えていく。隣でキミは大きく口を開けたまま、満天の星空に見入っていた。「あんまり夢中になっていると、流れ星が口に飛び込んでくるよ」どうやら見入っていたのは彼女だけではなかった様だ。帰り道の助手席で満足そうな顔で眠るキミを見ていたら、遠くない未来、キミが僕の知らない世界に飛び立って行くまでは、僕はこんな願いごとすべて叶えていきたいと思った。