Motorcycle QuestionS(2019年8月号 No.101)
文/青木タカオ 写真/清水惣資
「プロテクターの入ったバイクウェアが、なぜデパートに置いてないのか。まだまだ、他にない世界をライディングウェアならやれるような気がするんです」ファッションデザイナー・荒川眞一郎さんは、こう言って目を輝かせた。バイクが好きだから。そのための服をつくり続ける。
「普段着とは違いますし、ましてや観賞用のファッションでもありません。僕がつくっているのは、バイクに乗って走るためのライディングジャケットです」
パリコレクションにも参加したファッションデザイナー・荒川眞一郎さんがそう言い切ったのは意外であった。というのも、「SHINICHIROARAKAWA(シンイチロウアラカワ)」のウェアやバッグは、いずれもとびきりに洒落ていて、ブティックやレストランでもセンスの良さをアピールできるものばかり。つくっているご本人の口からはきっと「単なるバイク用ウェアではなく、普段着としても……」とか「機能性だけでなく、オシャレにも……」といった言葉が出てくるに違いないと、勝手に予測していたからだ。見込み違いがわかると、その言葉の一片たりとも聞き逃すまいと耳を傾けた。
「 昔は人が着れないような観賞用の服をつくっていましたけど、いまは逆。人のため、機能のために、どうすればいいか考えています。正直なところ、自分が二十歳とか若い頃に、五十を過ぎたオジサンがつくった服を格好いいと思って着ることなんてできませんでした。いま、自分がそういう年代になって改めて思うのは、きっと若い人たちの感覚とはもはや少し違っているのだろうなってことです」
衝撃的発言の連続である。いつまでも自分の感性こそ最先端と自信を見せるのが、トップデザイナーではないのか。しかし違うのだ。
「 もちろん、若い人のための服もやれますよ。でも、実際にそれが合っているのか、わかりませんからね。多少のズレは、あるんじゃないかって思うのです。だからライディングのための機能を追求した服をつくっていくのが、自分にはいいのかなって考えました」
つまり、世代の違いという決して埋めきれないギャップが確実に存在し、互いの感性を満たすものは、年齢の差が大きくなればつくれないかもしれないということだ。
しかし、自分でバイクに乗って走って納得がいくものなら、そこに間違いは絶対にない。機能は感性などという不確定性の強いものではないから、それこそが秀逸な本物であり、自信を持ってリリースできる。それが「SHINICHIRO ARAKAWA」のプロダクトであり、紛れもないライディングウェアなのだ。こうした方がいいと何度もやり直し、完成に近づけていく。膨大な時間、手間とコストがかかるが、徹底的に追求し妥協は許さない。
発売したばかりの最新のデニムブルゾン「H346 n」を試着してみると、腕を上げ下げしたり前傾ポジションをとっても、肩の位置がずれて盛り上がったり、腕や脇腹の裾がめくれることが一切ない。どんな姿勢でも、袖の位置がまったく変わらないから驚く。
ズレが生じずフィットするから、着心地が抜群にいい。これは素材の収縮や加工に頼らず、袖のトンネルが広いなどパターン、つまり立体的な裁断でのみ実現した。さらにボタンやファスナーが車体に触れるのを防ぐフラップを見ても、すべての形状が異なる。燃料タンクなどバイクの外装にどのような角度で当たるかを念密に計算した上で、その形は決められた。ここまで機能を追求すると、それこそカッコイイ。優れたツールやパーツに機能美があるのと同じなのかもしれない。荒川さんは語る。
「 バイクに乗るためのライディングウェアだからカッコイイ。そう言われるようになれば、最高ですよね」
バイク用という制約をプラスに転換させて、その機能性を魅力とした。もし購入したら、若い人に自慢してみたい。「これはバイク用のライディングジャケットです」と。
通常の服より腕の可動域が多く、体へ与える負荷が少ない構造となったクシタニ EXPLORER JEANSを使用したジャケットH346 n。腕を上にあげたり、前後に回しても服本体が引っ張られることがなく、体の動きに対してできるだけ服の形状が負荷とならないように作られた。素材による伸び縮みや加工によるものではなく、新たな裁断=パターン形状を採用したことで実現している。その軽快感はまるで服を着用していないのではないかと思えるほどで、サブネームとして付けられた「n=nudo」も納得がいくもの。バイクのライディング姿勢をはじめ、クルマの運転や日常生活でも体への負荷を和らげ、快適な着心地。これまでの製品も「バイク用ライディングウェアだから間違いない」と、オープンカーのオーナーらも購入している。価格は¥38,000、ダメージ加工あり¥48,000。
デザイナー荒川眞一郎
「パリコレクション」にも参加し、長きに渡って国内外から注目を集めるトップデザイナー。若い頃からバイクにゾッコンな根っからのライダーでもあり、自らデザインし、テストを行ない、機能性を追求したライディングウェアのラインを2007年にスタート。高い評価を得ている。
取材協力SHINICHIRO ARAKAWA
東京都港区南青山6-9-2 ☎03-6427-4520 営業時間13:00 〜19:00 水、木曜定休
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