MOTORCYCLE

【ライダーは天然色】大人になって通う学校は楽しい。

学生というとどうしても若者を想像しがちだが、社会の荒波に揉まれ、
いろんな経験を積んだ大人になってから改めて学生生活を満喫してもいい。
人はいくつになっても学ぶことができる。そんなことを元カメラマンの今村さんは伝えてくれる。
※こちらの記事はMoto NAVI 2021年2月号に掲載した記事を再編集したものです。

文/日越翔太(Moto NAVI) 写真/安井宏充(Weekend.)

バイクより好きだったものを選んだ

カメラの前でニッコリ笑う今村敏彦さんは、2020年に還暦を迎えた。現在の肩書きは学生。二輪の整備士を目指して学生生活を送っている。

「免許を取ったのは2003年。愛車であるハーレーのロードキングとはそのときからの付き合いです。2018年までカメラマンとして働いていました。バイクに乗り始めたきっかけは知人の誘いですね。2003年に市井の若者たちを撮影した写真展をやっていたとき、たまたま来た若者が、“自分たちを撮って欲しい”と連絡してきたんです。その後、彼と仲良くなって付き合いが始まると、彼が“バイクは面白いよ”って言うんですね。当時、彼はヤマハのドラッグスターに乗っていたんですが、もっと大きなバイクに乗りたいなんて話してて。そこで今村さんもバイクに乗らない? って誘われたんです」。

高校時代はホンダ・モンキーに乗っていた今村さんだったが、あまりハマらず降りてしまったという。興味はあったが、時は暴走族の全盛期。教習所で二輪免許が取れる時代でもなかったので、バイクよりももっと好きだった道に進むことを決めた。

「高校の時は写真部で、それからずっと写真をやってきましたが、もし高校時代に本気でバイクにハマっていたら、性格的にはそのままバイクの道に進んでいたと思いますね。1年くらいは乗ってたけど、卒業後は上京してしまったし、あとは写真の道で頑張っていこうと考えていたので、バイクのことはすっかり忘れていました」。

ここでカメラマンとしての今村さんを掘り下げよう。高校卒業後の18歳で、東京にある六本木スタジオのアシスタントとして写真の世界に足を踏み入れたのち、写真家の篠山紀信に師事。計8年の下積みを経て、フリーのカメラマンとして独立した。今村さんはそんな毎日を振り返り、若いころはバイクどころではなかったと話す。

「いいタイミングでバイクに誘ってもらったと思います。当時は42、3歳で結婚もしていたし、キリキリと写真に打ち込む時期を過ぎていたので、バイクが面白そうに見えたし、また乗ってみたくなったんですよね。そしていざ乗り始めたらことのほか楽しくて。いまでも彼とは仲が良く、一緒に走りに行ったり、キャンプツーリングしたりしてます。彼はセンスもいいし、バイクの師匠に恵まれたおかげでずっと楽しく乗り続けられてますね」。

時間には限りがある。やりたいことはやっておきたい

そんな今村さんに転機が訪れたのが、2年ほど前のことだった。

「息子が自動車整備の専門学校を見学に行くことになり、一緒に行ってやってと妻に言われまして。すると、そこの学校の品川校に、ハーレーダビッドソンコースがあると聞いて、面白そうだなと思ったんです。フリーランスのカメラマンに定年退職は存在しないのですが、60歳が見えたころから自分のなかで写真をやりきった感があったのと、明らかに仕事が減ってきてたんです。家にいてもヒマで寝ているのは嫌で、家族を送り出したあと家でひとり、自分は何やってるんだろうと思っていました。写真そのものに対しても、若いころは自分の感覚が時代にマッチしていたのに、次第にほかの何かに合わせなければならなくなってきたと感じるようになり、面白くなくなってきたのもありました。あと、高校時代の写真部の友人が、ここ10年くらいで2人亡くなったのも理由のひとつです。それを目の当たりにすると、やりたいことはやっておきたいなって思って。元気でいられる時間は限りがあるし、ぐずぐずしてても仕方ない。妻も好きなことをやればと言ってくれたし、60歳まで来たら、人生最後までもうちょっと好きなことをやっていたい気持ちが出てきたんですよね。ただ、いざ入学すると決めたとき、今から思うと周りは奇異の目で見ていたのかもしれません。でも、もともと僕はこれまで思いつきで生きてきて上手くいってきたし、いいかなと思って。SNSでカメラマン廃業を公表しましたが、未練はないですよ」。

今村さんはいま、東京・品川にある東京工科自動車大学校品川校の2年生として、40数年ぶりの学生生活を謳歌している。

「実際、学校はむちゃくちゃ楽しいです。息子と同い歳の子たちと同級生として一緒にやっているわけですからね。ただ、ハーレークラスには高卒で入った現役から、48歳に31歳、25~26歳の人などバラエティに富んでいます。なんかもう一生、学生やってたいくらいです(笑)。もちろん、現実的には2年学校に通ったからって店を開くには厳しいですし、若い人みたいに就職先があるわけじゃない。だからいまは自分で整備専門の店でもやってしまえって気でいます。60歳にもなるとネガティブな面をいろいろ考えてしまうし、勝算なんてあるわけない(笑)。嫌なことは考えないで、できることをやってみようかと思ってます。楽しくやっていければいいのかな、と。極めようと思ってしまったら若い人には勝てませんからね。春ごろどこかに店舗を構えて……とは思っていますが、不安はあるし、またカメラマンに戻っているかも(笑)」。

そう笑いながらも熱っぽく卒業後の進路を語る今村さんは、周囲の若い学生よりも輝いていて、第二の人生の始まりを告げる三拍子を待ちきれないように見えた。