ドイツでBMW R 18 Bに乗ってみた
BMWのクルーザーモデルであるR18の派生モデル、R 18 Bおよび、R18トランスコンチネンタルがついに登場。
流麗なデザインに高い走行性能、そして高い質感を兼ね備えたR18シリーズの新星に、
二輪ジャーナリストの青木タカオが試乗。ドイツの地で何を感じたのか。
text_AOKI TAKAO photo_BMW MOTORRAD
プレミアムモーターサイクル市場で世界ナンバー1を目指す
BMWがクルーザーセグメントでのシェア獲得に本腰を入れている。昨秋『R18』を発売すると、今春には『R 18 CLASSIC』を追加。そしてさらに今回、『R 18 B』と『R18 Transcontinental』が登場し、ラインナップを一気に拡充。ドイツ・フランクフルトにて報道向け試乗会が開かれた。
2020年、BMWは世界で10万7610台のモーターサイクルとスクーターを販売し、前年比40.3%増と、いま売れているブランドのひとつだ。発表会ではBMW Motorrad代表マルクス・シュラム上級副社長が、世界中から集った報道陣の前で「プレミアムモーターサイクル市場で世界ナンバー1を目指す」と高らかに宣言。最大の市場のひとつとなるのは北米であるが、言うまでもなくアメリカンブランド,、ハーレーダビッドソンが高いシェアを維持し続ける。
BMWは世界一のクルーザーイベント「スタージスラリー」(米国サウスダコタ州2021年8月)で両モデルを披露し、アメリカのファンらに猛アピールした。いかに彼らを振り向かせるかが、成功への鍵となってくるのは疑いの余地がない。躍進するBMWが、新境地でどれほどに支持されていくのか興味は尽きない。
さて、実車を目の当たりにして感じるのは、同社の伝統的なクラシックモデルを彷彿とさせる造形美と、これまでのプロダクトでも重んじてきた上質感が際立っていることだ。
R18第二章、ここに始まる
大型フェアリングを起点に、容量を24Lにまで拡大したティアドロップ型のフューエルタンクを経て、シートからテールエンドにかけて美しいシルエットを描くボディラインは、エレガントかつセクシーなもの。初回生産分となるファーストエディションはクロームパーツが奢られ、前後ホイールもコントラストカットの特別仕様に。手の込んだピンストライプも施されるから、もはや非の打ち所がない。
ストリップスタイルのR 18を皮切りに、ウインドシールドとサドルバッグ付きのR 18 クラシックが続き、さらに今回、バガーカスタムのR 18 B、そしてトップケースやフォグランプも付く大陸横断ツアラー、R 18 トランスコンチネンタルが同時に登場。ついに4機種が揃い、いまR18シリーズの第2章がはじまる
心臓部はBMW Motorrad史上最大排気量となる1801ccのボクサーツイン。シリーズ構築のために新開発したOHV方式の空油冷エンジンで、これを鋼板バックボーン+ダブルループ式鋼管フレームの専用ツーリングシャーシに積む。
R 18 B、トランスコンチネンタルではメインチューブが補強され、高い車体剛性を確保。増加した装備重量に対応している。
今回、乗ることができたのは軽快な走りを予感させるR 18 B。シート高は720mmと低く、身長175cmの筆者だと両足カカトまで余裕を持って地面にベッタリ届き、足つき性に不安はない。車体重量は398kgとヘビー級だが、低重心かつ両足がしっかりと地面に着いているから引き起こしも踏ん張りが効く。
ハンドルはR 18のワイドバーより絞り込まれているものの、それでもまだゆったりと広く、両腕を自然に上げたところにグリップが待っていてくれる。欧州仕様はペグの太いワイドステップを備えるが、日本ではフットボードを標準装備。サイドスタンドの出し入れがしやすかったことも報告しておこう
試乗はフランクフルト近郊をおよそ260km、ワインディング、高速道路、もちろん市街地も走った。クルーザーのテストライドにも関わらず、先導車は急カーブが続くつづら折りの山道をひたすら案内してくれる。R 18 Bはコーナーを不得手としていないことを、我々ジャーナリストに体感してもらいたいからだ。
もちろん最大の持ち味となっているのは、ハイウェイクルージングでの快適性。ウインドスクリーンはショート化されているが、高さは充分にありフェアリングとともに上半身を走行風から守ってくれる。風の巻き込みもなく、優れた整流効果をカウルが発揮。制限速度無制限区間もあるアウトバーンもハイペースで流すことができ、ロングライドも朝飯前と言わんばかりだ。
そのとき重宝したのが、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロールシステム)。前走車との車間距離を維持しながら、設定した車速内で自動的に加減速し、追従走行支援によって運転負荷を軽減してくれる。速度調節が1km/hまたは10km/h刻みででき、追従車間距離も3段階に設定が可能。ブレーキをかけたり、スロットルグリップをゼロ位置を超えて前方に回すと解除され、慣れれば手放せない機能となる。
こうして、欧州の高速道路でその便利さを味わってしまうと、ACCはクルーザーにこそ欠かせない装備となっていくと確信が持てる。ライバルより先にこのセグメントにいち早く導入したBMWは、アドバンテージを獲得したと言っていいだろう。
そして、オーディオシステムの音質にも舌を巻く。イギリスの老舗アンプメーカー、マーシャル製のスピーカーが、フロントとパニアケースリッドにそれぞれ2基ずつ備わり、フェアリング内部やラゲッジボックスが最適なエンクロージャーとなってダイナミックなサウンドを奏でている。
オーディオをはじめとしたインフォテインメントシステムは、10.25インチ カラーTFTディスプレイに表示され、ハンドル左にあるマルチコントローラーで直感的に操作ができる。BluetoothとWi-Fiを介してスマートフォンと接続し、BMW Motorradコネクテッドアプリともリンク。タンクコンソールには充電機能を備えたスマートフォン収納コンパートメントもあり、一定の温度(30℃)を超えると循環ファンによってスペース内が換気されるという手の込みようだ。実際、ファンが起動している音を停止時に何度か耳にした。
BMWは五感に訴える情感が重要。そう知っている
BMW Motorrad代表のマルクス・シュラム氏は、「エンジンを始動すると、エモーショナルな気持ちになる」と教えてくれた。ボア・ストローク=107.1×100mmのシリンダーが左右に突き出た水平対向2気筒エンジンは、始動と同時にブルンと生き物が身震いするかのようにし目を覚まし、単板乾式クラッチを繋げば極低回転域から潤沢なトルクを発揮する。鼓動を感じつつ、歯切れのよい乾いたサウンドに全身を包まれると、ウキウキと腹の底からせり上がるような想いがしてくるから不思議としか言いようがない。そうだ、たしかにエモい。
BMWはクルーザーセグメントに進出するのにあたり、情緒的で五感に訴えかける味わい深さが何よりも重要であることを熟知し、エンジンフィーリングを徹底追求してきている。猛攻を仕掛けるのに、強力な布陣がついに整った。
BMW R 18 B
●サイズ=全長2560mm×全幅1040mm×全高――mm ●ホイールベース=1695mm ●シート高=720mm ●タイヤ=前120/70R19 or B 19、後180/65 B 16 ●タンク容量=24L ●車重=398kg ●エンジン=1801cc 空油冷2気筒ボクサーエンジン ●最高出力=92.3ps/4750rpm ●最大トルク=158N・m/3000rpm ●価格=3,418,500円~(価格はFirst Edition)