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北のボ日記 #2
「ブレーキだけでは測れないスタッドレスタイヤの“安心”」

難のある夏タイヤよりもロードノイズが静かで、期待が高まったナンカンの
スタッドレスタイヤは、性能的に大きな破綻は無く、まずまずの印象。
しかし、リアルな路上での挙動と品質には、不安も抱えていた。

文と写真/淺川覚一朗

──アジアンタイヤ、台湾のナンカンのスタッドレスは効くのか?
上手いことを言った人がいます「値段が国産の三分の一だからといって、効きが三分の一ということはない」そこには賛成します。どうにも止まらなくてヒヤッとしたことは無いし、坂道を登れなかったことも無い。むしろ、なにかといい感じと思っていました。

でも、最初に違和感を感じたのは、ABSの動作です。例えば、安全運転の範疇である限り、アイスバーンの交差点の赤信号でABSが作動したことはありません。しかし、新雪がフカフカに積もった道でブレーキを踏むと、ペダルストロークの半ばで唐突にABSが動き出すことが重なりました。積もった雪に対するグリップが、どうしようもなく浅いのです。だからといって止まらないわけではないのですが、その都度ドキドキするのは当然だし、長距離ドライブではこういうことの積み重ねが大きな消耗につながっていきます。
また、舗装道路の上に積もった雪が融けてシャーベット状になったり水たまりができている路面では、スタッドレスが苦手にしているハイドロプレーニングにとりわけ弱く、頻繁にハンドルを強くとられます。S80というクルマはシャシーの素性がよく、このクルマは四駆ということもあって横滑りには強いわけですが、それがここまでフラつくのであれば、FFやFRではどうなるだろう、という話です。

それでも「安全運転」をしている限り、止まらない登れないということはありませんから、スタッドレスとしては「充分」とも言えます。でも、僕は二ヶ月ほどでナンカンを諦めることにしました。理由はいくつかあります。
まず、路面の凸凹や轍に逐一ハンドルを取られてしまい、まっすぐ走っているだけでも唐突な横Gやシェイクに襲われてしまうこと。

画像のようなそれほど深くない凍った轍を踏んだだけで、ロングホイールベースのショーファードリブンのセダンが軽トラのようにいつまでも横揺れを抑えられなくなってしまう。これは、スタッドレスタイヤであることを割り引いてもあまりのことです。サイドウォールの剛性が致命的に不足しているのでしょう。
そして、3,000kmほど走ったあと、高速道路で加速していくと、凍結で制限された80km/hの手前で、ステアリングとペダルに微妙なバイブレーションが伝わってくるようになったことです。これは、あきらかにホイールバランスがとれていない。組み付けたときに合わせた回転方向のバランスが崩れたとは考えづらいので、摩耗によってトレッド面の左右方向のバランスが崩れてしまったのかもしれない。

ナンカンのスタッドレスは効くのか? ──効きます、それはもう充分に。しかし、S80のような大きくて重いクルマとは相性が悪いのでしょう。そして、車体を通して手足やお尻に伝わってくるタッチはまだまだ洗練されておらず、崩れてしまったホイールバランスを考えると、品質も不安定に思えます。もしこれがコンパクトカーだったら、また印象は違っていたかもしれません。しかし少なくとも、サイズが大きかったり、高出力のクルマ。あるいはロングドライブをする機会の多いドライバーに勧められるタイヤではありませんでした。
ブレーキは効く、発進もスムーズだし坂も登る、安全は感じられた。でも、安心には不充分だった──それが僕のナンカンのスタッドレスに対する評価です。



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北のボ日記 #0「さようならBMW、こんにちはボルボ」

北のボ日記 #1「インチアップに耐えられなかったアジアンタイヤの話」

著者紹介
淺川覚一朗
じつは旧「NAVI」当時から隅っこで描き続けている古株。「Moto NAVI」では「バリ伝」「ララバイ」のストーリーボードを書いたり、現在は書評「Moto Obi」を連載中。ライター稼業の一方で、北海道美唄市の「地域おこし協力隊」として業務委託を受け、同市の役場の人”として街おこしに取り組んだり、観光情報を発信中。