CAR

クルマを「直す」という仕事

コンピューター制御が増え、ブラックボックス化が進むクルマ。
とはいえ、クルマが機械の塊であることに変わりはない。
世界を飛び回りながら、数多くのクルマを 直した男を通じて、
クルマを直すという仕事について考える。

文/日越翔太(NAVI CARS) 写真/小野広幸

クルマはもちろん好き。そしてそれ以上に機械が好き

神奈川県茅ヶ崎市の住宅街の一角に店を構えるイー・エムコーポレーション。通りに面した工場には、ダットラやコロナマークⅡなどの国産旧車が所狭しと並んでいる。
「うちなんて、これで仕事してんのか? っていうくらいの規模ですよ。知名度がないから、旧車に強いとか、なにか特色を出していかないと」。
そう話すのは代表を務める江口陽一さん。ディーラーのメカニックを皮切りに、メーカーの海外工場での技術指導や長距離トラックドライバー、さらには自動車関連の商社マンなど、肩書きはさまざまながら、30数年にわたって常にクルマにまつわる仕事に携わってきた。
「国産旧車のストックパーツの豊富さには自信があります。だから全国のクルマ屋さんから問い合わせがあるし、地場のお店からも〝昭和○年の○ ○のパーツない? 互換性ある?〞なんて連絡がよくある。ディーラーとか部品商だと、互換性までは追えないんですよね。ほら、品番が違うから。ただ、自分はいろんな仕事に就いてきた経験で〝このパーツはあっちにも合いそうだ〞なんて気づくことが結構ある。資料も当時のものをたくさん保管してるから、調べることもできますしね」。

話しながらタバコに火をつける江口さん。油の汚れが染みこんだ無骨な手にタバコがよく似合う。
「整備士といえば、昔は黙々と仕事してればいいって考え方もあったけど、ネットが発達したいま、海外のお客さんに頼まれて、国産車の純正部品を取り寄せることもあります。商売にはなんないけど、幸いうちは輸出も輸入も自分でやるし、持ち込んだクルマは排ガス検査なんかも一人で通す。だからその分、お客さんには安く提供できてると思う」。

「お客さんと、お互いに信頼し合える関係でありたい」

高校卒業後、江口さんは整備士としてトヨタに入社。整備の技術を身につけるかたわら、休日を利用して自分の足で営業のノウハウを学び、その後は中古車の査定や保険のスキルも身につけた。その後縁あってフランスやアルジェリア、リビアなどでショップのオープンを手伝ったり、陸揚げされた車両の検査をする機会も得た。さらには圧雪車や建設機械にはじまり、船のエンジンを整備したことまである。そんな経歴がゆえに顔も広く、最近ではクルマ好きで知られるタレントが購入した古いポルシェのレストアに協力したという。
「あれは本当に大変だったんですよ。埃が10㎝くらいの層になって積もっているし、ブレーキは固着していて、キーすらない。保管場所から出すだけでも一苦労(笑)。でもね、そもそも自分はクルマというより機械が好きなんです。クルマを直すにしても、オリジナルに忠実なレストアをするのではなく、直して動くようにするのが仕事だと思ってる。だからパーツの流用はするし、リビルドすることもある。学校のテストなんかだと、100点満点のはずなのに、80点取れば合格、みたいなのがあるでしょう? それが腑に落ちない。仕事は100点、100%しか存在しないと思っているから、中途半端なことはしたくない。仕事には80点なんてないんです。ありがたいことに、お客さんもそんな自分を信頼して任せてくれてる。そういうのが大事だと思うんですよね」
そう言うと、ニカッと笑った江口さん。腕一本で生きてきた男ならではの説得力がそこにはあった。

SHOP INFO

イー・エム コーポレーション
国産全メーカーや輸入車をはじめ、トラックや建設車両等の新車販売に中古車販売、カスタムカーの制作販売などから、修理や点検、板金塗装、さらには二輪車にまつわる各種整備や車検代行など、二輪・四輪問わずなんでも請け負う。

神奈川県茅ヶ崎市代官町2-7
0467-50-4390
www.emotors.co.jp/