MOTORCYCLE

40半ばのシェフがおんぼろバイクでサーキットを目指す件 #1

元モトナビ編集部員で、現イタリアンシェフのトミヤマが、
ボロボロのバイクをレストアしてレースを目指すモトナビの連載企画をネットでも!
自ら茨の道を行く、40半ばの悲喜劇。その初回をお届け!

文/冨山晶行(トラットリア築地トミーナ) 写真/渡辺昌彦、後藤 武、冨山晶行 アドバイザー/後藤 武

メシ作るから、オレも仲間に入れてくれ!

2019年の春。家庭の事情で家業のイタリアンレストランにシェフとして戻ることになり、モトナビ編集部を離れたワタクシ、不肖トミヤマ。しかしその直後に脳梗塞に倒れ、集中治療室に入れられることになった。動けないので見えるのは天井だけ(エヴァでいう「見知らぬ天井」ってやつ?)。嫌なことを考えても仕方ないので、退院してからやりたいことだけ考える毎日。またミニバイクでレースするのもいい。大学のときに挫折したラリーに再びチャレンジするのも悪くない。でもその前に痩せなくちゃ……なんて感じで過ごしていたが、現実はそんなに甘くなかった。退院後は後遺症に悩まされる日々が続く。1年が経ち、リハビリのおかげで動かなかった右手と右足も動くようにはなったけれど、心はどこか鬱屈したものが溜まっていた。
そんなころ、バイク雑誌「Moto NAVI(モトナビ)」で、「フルバンクで行きたい食堂」を連載している後藤 武(ゴトー)さんから、突然のお誘いをいただいた。

「なぁ、トミー、興味があるならLOCのレースを見に来ない?」

退院後、家族に黙ってMotoGPを観に行ったくらいレースは大好き。ゴトーさんからのお誘いにふたつ返事でOKし、レース当日に筑波サーキットへ向かうと、パドックにはホンダのCB750FourやマチレスG50、ノートン・コマンドなどの大好きなクラシックバイクがずらり。アガる! そんなピカピカなマシン達の中で、くすんだパープルのカワサキ・マッハが異彩を放ちたたずんでいた。ゴトーさんのマッハだ。
チームゴトーのレース活動はある意味強烈だった。素人目に見ても調子の悪いマシンを、ゴトーさんの仲間が寄ってたかって直していく。隣のテントの46ワークス代表の中嶋志朗さんが、「決勝日にそんなにやることあったっけ?」と覗きに来るほどいろいろなことが起きた。自分も手伝いながら、あーでもないこーでもないとやっていくうちに、見違えるように調子を取り戻していくマッハ。決勝直前ギリギリで完調になったマッハのエンジン音には鳥肌が立った。そのマッハを駆り、決勝でゴトーさんは表彰台に登った。チームメンバーではなく部外者の僕も、めちゃめちゃうれしかった。

みんなで決勝に向かってマシンを仕上げ、走らせる。クラブマンレースの醍醐味がここにあった! エントラントの皆さんも、10年以上前に参戦してたミニバイクレースみたいに、バチバチしていなくて余裕がある。――自分もこのレースの仲間になりたい――。まずはとりあえず得意な分野で役割を得ようと、チームゴトーの調理担当を名乗り出てみた。メシ作るから、みんな仲間に入れてくれよ、と。
「トミーも走ればいいじゃん。ヤマハXS650なら多分そんなに苦労せずにレーサーにできるよ」とゴトーさん。数日後、コレクションを断捨離したいという人がフェイスブックに投稿していて、写真にヤマハのXS650が写ってるから聞いてみれば? とゴトーさんから連絡が来たのですぐにチェック。確かに写っている。ドキドキしながら兵庫県在住の投稿主に連絡すると、すんなりOKが出た。どうしよう、勢いで買っちゃったよ。6万円也。

来年、このバイクで走れたら、感動して泣くかも──

ゴトーさんの友人に頼んで、兵庫からゴトーさんの事務所まで車両を運んでもらった。店のワンボックスで引き取りに行くと、ゴトーさんの事務所の前にはタイヤが付いたサビの塊が。まさかコレじゃないよねと思いつつ近づくと、まさしくコレ。
取り回そうにもすべての潤滑油が失われたか、ハーレーのCVOロードグライドより重い。重すぎて、トランポのラダーを上ってくれない。10回以上チャレンジしたが、あと一歩で上り切らない。滝のような汗。どんどん伸びる助走距離。近くの小学校の下校時刻なのか、気が付けば小学生に囲まれていた。ギャラリーから、おじさんガンバっての声が飛ぶ。心拍が上がって頭痛がしてきたけど気合一発、大人の意地でなんとか載せたら、拍手が起こった。

そんな我がXSをLOC(レジェンド・オブ・クラシック。1972年以前の黄金期のモータースポーツシーンの再現を理念として掲げたクラシックバイクレース)のみんなに見てもらおうと後日、筑波サーキットに持ち込んでみた。みんな苦笑いしてたけど、つかみはOKってことにしておこう。たぶん、来年の開幕戦にこのバイクで戻ってこれたら、そして決勝を走れたら、感動して泣くだろうな。

さて、車両は手に入れたものの、どこから手を付ければいいのか全くわからない(笑)。なので、とりあえずバイクの素性を調べてみた。車体番号から1970年式のXS-1といって、XS650シリーズの初期型だということが判明した。ありがとうインターネット。しかし、知りたくない情報までついでに手に入れてしまう。型式256と呼ばれているこのエンジンは、スタッドボルトの位置の関係でボアアップに難があるというのだ。せっかくなら750ccにボアアップして、ゴトーさん達と同じレースに出たい。情報ばっかり詰め込み気味のオタク気質なトミヤマは、「こらアカン」と焦って中期型の3G5と呼ばれるエンジンをヤフオクで購入しました。バラバラにされていたので、分解する手間が省けたじゃーん、と思っていたが、またやっちまった!

#2はこちら
40半ばのシェフがおんぼろバイクでサーキットを目指す件 #2

ベース車両 YAMAHA XS-1(1970)

2ストロークエンジンのバイクのみを市販化してきたヤマハが、オートバイの高速化に対応すべく650㏄ 4ストローク2気筒エンジンを搭載して1970年にデビューさせた一台。1年も経たないうちにXS650へマイナーチェンジし、以降80年に最終型が登場するまで長く生産された。

何度でも書きます。#2はこちら
40半ばのシェフがおんぼろバイクでサーキットを目指す件 #2