40半ばのシェフがおんぼろバイクでサーキットを目指す件 #2
元モトナビ編集部員で、現イタリアンシェフのトミヤマが、
ボロボロのバイクをレストアしてレースを目指すモトナビの連載企画をネットでも!
自ら茨の道を行く、40半ばの男の悲喜劇。
※こちらの記事は、「40半ばのシェフがおんぼろバイクでサーキットを目指す件 #1」の続きです。初回はこちらからお読みください。40半ばのシェフがおんぼろバイクでサーキットを目指す件 #1
エンジンのことなら内燃機屋さんでしょ!
「バラバラ~? なんでそんな厄介なモン買ったの? 欠品があったらどうすんのさ」というゴトーさんの指摘に顔面真っ青。そこで手を差し伸べてくれたのが、LOCにXS650で参戦中の筋肉がステキな新井選手。バラバラのエンジンを一緒に仮組みして、チェックしてくれた。ありがとう新井選手! 結果、大きな欠品はシフトドラムくらいで、サビサビ号のエンジンから拝借可能だとわかった。
ついにエンジンオーバーホール。バイクには20年以上乗っているのに、ブレーキレバーの交換すらディーラー任せで生きてきた(カネに物を言わせてきたともいう)。だからオーバーホールなんて当然やったことないのでゴトーさんに相談する。餅は餅屋、エンジンは内燃機屋さん、ということで埼玉県川越市にある井上ボーリングさんに見ていただくことに。代表の井上さんは2ストエンジン界の超有名人。もちろんゴトーさんのマッハもこちらのお世話になっている。井上さんの提案でシリンダーにはICBM®加工を、クランクは組み立てて芯出し、バルブシートカットを行う(クランクとバルブシートの作業は下記で詳しく掲載)。ICBM®加工というのは旧車の鋳鉄スリーブをアルミで作り直し、ニッケルのメッキをかけて大幅な耐摩耗性を得る、井上ボーリングさんお得意の特殊加工。こちらは加工に時間がかかったため、次回更新回で仕上がりをご覧いただこう。
それにしても、こちらの工房(あえて工房と呼びたい)の空気感にミシュラン星付きレストランの厨房に通ずるものを感じた。職人さんの所作ひとつひとつが大変美しく、いつまでも見ていたくなる。エンジンを組むと、パーツ類が見えなくなってしまうのが惜しい。……あ、スミマセン。急にシェフっぽいとこ出しちゃって。
バルブガイドの打ち直しとバルブシート加工
左/現状のバルブ状態を見る。作業を担当する市川さんがバルブスプリングコンプレッサーを使い、バルブコッターとスプリングを外す。 右/バルブをバルブガイド内で揺らすとカタカタ音が鳴る。バルブガイドが痩せてしまっている証拠だ。バルブガイドを作り直さなければ。
左/数日後、無垢材から同形状に削り出したバルブガイド。左が新規作成したもの。元のバルブガイドは熱膨張を利用してヘッドから引き抜いた。 右/バルブガイドを圧入するためにアルミ製のヘッドを200℃まで温める。まさかの調理用バーナーの直火で加熱には驚いた。
左/熱いうちに新規バルブガイドをスペーサーを介してハンマーで圧入していく。圧入の際、ゴム製のOリングを忘れずに。 右/それぞれのバルブのシャフトに合わせて、新しいガイドの内径を削って調整する。4本すべて、削りすぎないよう慎重に削る。
左/今度はヘッド側、バルブの収まる面であるシートを削っていく。削るとっても一皮むくくらい。1mm以下の作業に思わず息を飲む。 右/削ったシートに合わせてバルブのフェイスも削り、密着するように調整。その後バルブに研磨剤を塗り、すり合わせて研磨する。
左/シートカットマシンについているバキューム計で当たりを確認。ここが密着していないと、いわゆる圧縮漏れの原因になる。 右/洗浄して完成。バルブを触るとガタつきが一切なく、収まるべきところに正しく収まっている印象。清々しい。
バルブシートカットを担当していただいた工程管理部長の市川信行さん。繊細な作業でバルブまわりが生き返りました。
クランクの組み立てと芯出し
左/現状を確認するために治具にセットし、マイクロメーターで歪みをチェック。許容範囲を超えているので、分解、洗浄して芯を出してもらう。 右/分解し、洗浄。欠品のメインベアリング以外は新品に交換。同じく欠品のワッシャーやサークリップもそのまま再使用する。
左/プレス機でクランク同士を圧入する。XS650は2気筒の間にカムチェーンが通るのでスプロケットが中心にくる。 右/コネクティングロッドとベアリングを組み込み、残りのクランクとベアリングを圧入。調整しやすいように緩めに、しかし真っ直ぐに組んでいく。
左/いきなり銅ハンマーでぶっ叩きはじめたのでビックリ! 叩くとクランクが微妙に曲がるので、歪んでいるのを叩いて真っ直ぐにするのだ。僕の性根もぜひ! 右/叩いたらマイクロメーターで測定。真ん中から端に向かって計測していく。叩く、測定を繰り返して許容範囲1/100mmに近づけていく。
左/ある程度芯が出たところで、コンロッドにシムを挟み、プレス機で仕上げの圧入。そしてまた計測し、叩いて微調整を繰り返す。 右/メインベアリングをハンマーで圧入して組付けて完成。経験上、芯出しは2気筒より単気筒の方が調整するところがなくて難しいとのこと。
左/最後にクランク全体が規定値に収まっているか、デジタルノギスとマイクロメーターで最終チェック。 右/頭のつぶれた銅製のハンマーが作業の激しさを物語る。クランクを三次元的な感覚で認識しながら叩く必要があるのだそう。
作業を担当した製造開発部長の小林丈晃さん。いわく、取材日は調子がよかったとのことで大いに助かりました!
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40半ばのシェフがおんぼろバイクでサーキットを目指す件 #3