MOTORCYCLE

40半ばのシェフがおんぼろバイクでサーキットを目指す件 #2<後編>

元・本誌編集部員であり現イタリアンシェフのトミヤマ。
ついに最強のシリンダーを手に、さらにもうひとり巻き込みつつエンジンの組み立てに挑む。
自ら茨の道を行く、40半ばの悲喜劇の2回目、その後編をお届け!

文/冨山晶行(トラットリア築地トミーナ) 写真/冨山晶行 アドバイザー/後藤 武 協力/新井洋一

相変わらずのきっちりした職人仕事に背筋の伸びたトミヤマは、井上ボーリングの皆さんから生まれ変わったシリンダーを受け取ると、お礼をしつつ次の目的地である新井洋一選手のお宅へと向かった。そう、押しかけてエンジンを組み立てようというのだ。
実は5月のテイスト・オブ・ツクバのレース後、エンジン組み立てをゴトーさんに相談したところ、「仮組みは新井選手の家でしたんでしょ。組み立ての指導も含めて、そのまま頼めないかな」。え? さすがに迷惑でしょ、それ。体は大きいトミヤマですが、気は小さいほう(だと思ってます)。でも、モジモジしても始まらないのでちょっと勇気を出して聞いてみると、「いいですよ。工具もウチの使えばいいし」と、まさかの快諾。なんていい人だ。正直ちょっと涙出ました。

そして押しかけ組み立て当日、いきなりやってしまった。この日のためにネットで買ったパーツやエンジンなどを大量に持ち込んだのだが、何がどこにあるかあまり把握できていない。初めにちゃんとパーツを分類しておけば、時間をロスせずに済んだのに。「俺は準備に結構時間かけて、欠品がないか部品チェックするんだよ。途中で作業が止まるのが最悪なパターンだからね」と写真を撮りながらゴトーさん。……今日作業が止まるフラグが立ったな。

準備といえば、事前にエンジンケースを洗おうと、店のシンクにマルチクリーナとお湯をためて漬け置きしたくらい。さすがに店のスタッフに怒られたけど。そのあと真鍮ブラシでこすっただけなので、思ったよりきれいにならなかったが、新井さんはこれで十分とのこと。しかし、ガスケットの残りはNGが出た。買ったばかりのガスケットリムーバーを吹いて、スクレーパーで剥がし、オイルストーンで綺麗にしてから、ついに組み立て開始。
新井選手のガレージは、圧倒的に工具の数が違う! もしウチで作業していたら絶対に1日じゃ無理だった。新井選手に深く感謝。このご恩に報いるべく、絶対に来年の開幕戦を一緒に走るぞ!

液体ガスケットは塩といっしょ! 入れすぎたら終わり!

気合を入れながら、新井選手とマニュアルを見つつ腰下のアッパーケースにミッションとクランクを組み付けていく。はじめてなので、オイルシールもベアリングもオイルでベチョベチョにするのがまず新鮮。アッパーケースとボトムケースを合わせるときに、液体ガスケットを使ったのでまた驚いた。四輪の旧車界隈では、オイル漏れに液体ガスケットを注入してあとはヨロシクという極悪修理を耳にしていたので、液体ガスケットに対し、勝手に悪いイメージを持っていたのだ。ならばと、いい気になって液体ガスケットを多めに接合部に塗りたくっていると、「液体ガスケットは塗りすぎ厳禁! 塩と一緒で入れすぎたら最後、修正できないぞ!」とゴトーさん。さすがは二輪業界きっての食通ならではのたとえである。そう、料理人の世界では、塩は振りすぎたら修正はほぼ不可能。気を付けなきゃ。
腰下を組み立てて、ついにICBM加工のシリンダーを組み付ける。シリンダーにピストンをあらかじめ入れておくのが新井流。なのだが、その前に問題発生。ピストンリングの長さは合っているか? とゴトーさん。え? 付属のリングを付けるだけじゃダメなの? 確かに説明書にはしっかり用途別にリングのクリアランスがインチで書いてあった。うーん、知らないことだらけだな。でも、新井選手も同じピストンを使っていて、リングはカットせずに今までトラブルなしということなので、同じくそのまま組み付けた。

え? エンジンの部品って削っていいの? マジ?

ついにシリンダーと腰下が合体かと思ったら、またトラブル発生。あと数センチのところで何かに干渉してシリンダーが入っていかない。よく見るとシリンダーの間にあるカムチェーンガイドの取り付け部に、ボアアップして大きくなったスリーブが当たっている。
トミヤマはここで一回ココロが折れました。もうだめだ。どうすりゃいいんだ。
「じゃ、削りますか」と新井選手。え? 削る?
「そうだよ。削るところマーカーで色付けといたほうがいいぞ。削りすぎちゃうから、ほら」と油性マーカーを差し出すゴトーさん。新井選手があっという間にリューターを用意。エンジン内部ってこんなに気軽に削っていいの? 入らないんだからしょうがない? そりゃそうですが……。

ついにシリンダーと腰下が合体かと思ったら、またトラブル発生。あと数センチのところで何かに干渉してシリンダーが入っていかない。よく見るとシリンダーの間にあるカムチェーンガイドの取り付け部に、ボアアップして大きくなったスリーブが当たっている。再び分解してチェーンガイドを外す。意を決してリューターで削り始めたら、だんだん楽しくなってきた。外したシリンダーに当ててクリアランスをチェックし、今度は無事に組みあがった。俺にもできたよ……ママン。
「トミヤマさん、レースはじめたら何度もエンジン降ろして組むことになりますよ。嫌でも覚えますから」「そうだぞトミー。俺なんかRZでレースしてたときは走行ごとにエンジン開けてたぞ」と、おじさんふたりにおじさんが励まされつつ、トラブルを乗り越えてようやく日が暮れたころにエンジンが組みあがった。
新井選手とゴトーさんがいなかったら正直何日かかっていたか。だから自分で組み上げたなんて全然言えない。けれど適切な工具を正しく使って、順番通りに組めば組みあがるということは理解できた。料理よりお菓子作りの方が似てるところがあるかもしれないなぁ。あ、またシェフっぽいこと言っちゃった。

エンジン組み立て

➀/同じXS650でLOC参戦中のライダー、新井洋一さんのガレージに潜入。エンジンの組み方を教えもらった。ガレージ広っ!②/まずはエンジン腰下をパーツクリーナーで洗浄しながら、グリスとオイルを塗りこんでシフトドラムを組み立てる。

 

③/ミッションはベアリングが欠品で、交換できたのは1ヵ所のみ。オイルを塗りまくってケースに組み込む。 ④/井上ボーリングで芯出しと組み 立ててもらったクランクをケースに組み込む。見えなくなるのが惜しい。

 

⑤/ミッションとシフトドラム、クランクを組み込んだアッパーケース。ケースの結合面はパーツクリーナーでしっかり脱脂。 ⑥/たっぷり液体ガスケットを使いたいのを我慢しながら、指先に少量つけトントンと接合面にヌリヌリする。

 

⑦/下側のケースも接合面をよく脱脂して、スタッドボルトを通しながらケースを接合する。 ⑧/マニュアルに書いてある通りにボルトを規定トルク通り締めていく。実はトルクレンチ初体験でした。

 

⑨/7枚あるクラッチのプレートを強化品に交換する。間に挟み込むワッシャーもオイルをた~っぷり塗っておく。 ⑩/クラッチのプレートとワッシャーを順番に重ねて、プレッシャープレートとスプリングで挟みこんで固定。

 

⑪/ピストンリングのクリアランスが用途によって違うなんて知らなかった。……が、問題なしと見てこのまま組み込むことに。  ⑫/新井さん流、ピストンをあらかじめシリンダーに圧入し、組み立て時にクランクとつなげる作戦。イケてるなぁ。

 

⑬/シリンダーがどこかに当たって、スリーブが下がりきらない! 下がらないのは店の売上や息子の成績だけにして!  ⑭/犯人はクランクの真ん中、チェーンガイドの固定部分。シリンダーの外径が大きくなったので当たってしまったようだ。

 

⑮/もうだめかと思ったが、なら削っちゃえということでリューターでシリンダーと当たる部分を2~3mm削る。  ⑯/その後は組みつけが順調に進み、バルブ、カム、カムチェーンを取り付け、ヘッドカバーを規定値トルクで締めこむ。

 

完成! なにこの達成感。

次回は「車体の解体とホイールの組み立て」です。
お楽しみに!