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ホンダ・シビック タイプRに乗ってみた

“たま”に“バイク”に乗るくらいだけど、“たま”らなく“バイク”が好き。
そんな「たまバイ」なモトナビの企画発行人モリグチが、
バイク好きに勧めたいクルマ、ホンダ・シビックタイプRに乗った。

文/モリグチコウセイ(Moto NAVI企画発行人) 写真/安井宏充(Weekend.)

「たまバイ」だからクルマも好きだ!

今年、50周年を迎えたCIVIC。その最新のTYPE Rである。走りのクルマと定義すれば、SS好きの「たまバイ」たちの世界とシンクロする、それがCIVIC TYPE Rに乗る前のイメージだった。なんたってサーキット走行ができるどころか、世界FF最速を狙うクルマだ。本気のクルマだ。走りが好きな人向けの存在だろう、そう思っていた。

出会った新型TYPE R。おおー随分、デザインが変わった。先代のガンダムチックなゴツゴツしたデザインとは全く違い、美しさの方向に変わった。先代のデザインも多くのファンがいる。深い理由はわからないが、先代は女性層に人気のようだ。だが正直、私が乗るには違和感があった。例えるなら、ゴツゴツしたバレンシアガのスニーカーの感じだろうか。若者にはいいが、私のような年配者には恥ずかしい、そんな感覚だった。

だが新型はパッと見て、正直にかっこいいと感じた。試乗したチャンピオンホワイトの白と黒のバランス、そこに赤が効いているデザインが実にホンダらしい。そしてリアフェンダーの大きすぎないデザインも、控えめでいいではないか。でも美しいデザインのクルマって、イケメンでないと降りるのが恥ずかしい気が私にはしてしまうのだ。

そこで、ちょっとみんな乗って降りてきてくれよ、とスタッフにまず乗り降りしてもらった。
おや? なんだか降りてくる人が、かっこよく見えるぞー。決して過剰なデザインではなく、控えめな美しさが、降りてくる人にオーラを与えているような。デザインが主張し過ぎていないからなのだろうか。デザインが行き過ぎたクルマって、スターや芸能人やかっこいい人ならいいが、私のような人には恥ずかしくて降りることができなくなる。でもTYPE Rはそうではなかった。むしろ降りてくる人に、オーラを与えてくれているように感じた。素敵じゃないか。

さてさて乗り込むぞーー。さすが! 真っ赤な世界がお出迎えだ。間違いなくTYPE Rという空間に乗り込んで、いざ出陣じゃー! 気分はキムタクのぎふ信長祭りの如く、エンジンを吹かす。電動化になると吹かすということもなくなるな、などと思いながら、スタート前から高揚感でいっぱいになる。これがTYPE Rマジックか? 日常の中で非日常を感じる価値観か……悪くないな。

バイクとクルマのデザインの大きな違い、それはクルマにはエクステリアとインテリアという別のデザインが共存すること(バイクは一体ですからねー)。そう考えると、落ち着いた外観とテンションが上がる内装のギャップは、クルマ特有の楽しいギャップでいいのではないだろうか。

さて、走る。TYPE Rのマニアックな走りの評価は、自動車評論家のみなさんに任せよう。ここでは「たまバイ」代表として私の感想を綴りたい。

さすがTYPE Rだ、音が気持ちいい。そして何より感じたことは、MTだが運転しやすいこと。私は世代的にMTからクルマに乗った世代なので、MTの感覚はよくわかっているが、回転数を気にしなくても、なんら問題なく走れる。今まで乗ったMT車で、最も乗りやすかったと言ってもいい。特に「コンフォートモード」なら、本当に運転しやすいのだ。どちらかというと、バイクに例えるならSSではなくて、私の愛車のCB1100みたい、これが正直な感想だ。もちろん、かっ飛ばせる場所ならそれに十分応えてくれる奴なのだが、ラクにMTに乗りたい私のような人間にも優しい奴なのだ。これは本当に想定外だった。

さらに今回のTYPE R、ブレーキホールドも装着されている、これなら坂道発進でエンストする不安も皆無に。さらにさらにHonda SENISINGも装備、ええー? 高速で渋滞追従もこなすということか!? と、今までのTYPE Rにはない装備に驚きの連続。こいつは、ただフルモデルチェンジした存在ではない、確実に時代に合わせた進化が備わったTYPE Rだ。

私は今まで、走りを極めるようなクルマに乗ってみたいと思うことはなかった。サーキットに行く日常は持ち合わせていないし、限界まで走りを極めるハートもない。でも本当に自分でも驚きほど、今回のTYPE Rに強い興味を持ってしまった。時代の進化がTYPE Rに、今までにはないキャラクターも授けたようだ。先日ちょうど、モトナビのヒゴシ編集長がスズキの「ハヤブサ」はすごい! メガスポーツ系だけど圧倒的に乗りやすい、速くて乗りやすいキャラだと力説していたが、同じ感覚。「速くて乗りやすい」そういう価値観の時代が来ているのかもしれない。

実は私は仕事柄、TYPE Rの開発者、柿沼秀樹さんの話を聞いたことがある。
「究極の走りを求め、速いマシンは、ドライバーが使いやすいレイアウトやセッティングになっているということ。つまり、操りやすく乗りやすいということになる」そう話していた。
そういうことなんだ、走りが凄いだけがTYPE Rのキャラではないんだ。走りを求めたことが、乗りやすさにつながっているんだなと、試乗で改めて実感した。極めた凄い格闘家やアスリートが、どんどん人に優しくなるようなものかもしれない……。

※柿沼秀樹氏のお話はこちらから(※別サイトにリンクします)

試乗を終え、実はいちばん驚いたのはクルマに対してではなく、自分自身のことだった。走りを求めたクルマやバイクは、20代を過ぎてからほぼ興味を失っていた私が「欲しいかも」と思い出したのだ。なんでも、新型CIVIC TYPE Rは大人気で納車まで1〜2年待つということだが、うーん、このデザインと乗りやすさなら、いいかも――そんな気持ちがムクムク。

「たまバイ」にとって、パワーやスペックよりも必要なのは、「乗りやすい」こと、そして気軽に「乗りたくなる」こと。新型TYPE Rは、予想とは違い、この「たまバイ」が求める感覚を持つクルマだった。いやはや、私、ちょっと久々に、恋心(笑)。

HONDA CIVIC TYPE R
●サイズ 全長4595mm✕全幅1890mm✕全高1405mm ●ホイールベース2735mm ●車両重量1430kg ●駆動方式 FF ●トランスミッション 6速マニュアル ●エンジン 1995cc水冷直列4気筒横置 ●タンク容量 47L ●最高出力 330PS/6500rpm ●最大トルク42.8kgf・m/2600-4000rpm ●最小回転半径 5.9m ●タイヤサイズ 前後265/30ZR19 93Y ●価格 4,997,300円

著者プロフィール
モリグチコウセイ
/バイク雑誌「Moto NAVI」の企画発行人にして、発行元のエフテンブックなどの代表を務める。TV-CM「負けるもんか」コンセプト開発、「TOKYO VOICE」発行、「ホンダ・スーパーカブ 天気の子ver.」プロデュース、「LoveCub 50」主宰など、肩書き不問で活動中。「伝える」ことを考え続け30年を超える。軸は企業ブランドや商品の発信。イベント、映像、Web、雑誌と領域問わず企画から現場まで行う。