MOTORCYCLE

SHOEIの低温風洞実験施設に潜入セヨ!

人一倍好奇心旺盛なモトナビ編集長ヒゴシが、SHOEIが誇る風洞実験設備に潜入。
その知られざる全容とカッコよさを極私的に書きつづる。
職権を濫用した大人の社会科見学はサイコーだ!

文/日越翔太(Moto NAVI) 写真/高柳 健

風よ吹け吹け! 雨よ降れ降れ!

茨城県稲敷市にあるSHOEIの茨城工場。その一角に風洞実験設備があるのはバイク好きにはそれなりに知られているが、コロナ禍にあった2021年秋、同工場内に低温降雨風洞設備も誕生したことはご存知だろうか。

とはいえ、こちらはたとえ知っていても部外者が見学できる場所ではないが、かくいうワタクシ、本誌編集長ヒゴシのようなメディアの人間であればその権限を振りかざして潜入できるはず。

というわけで、SHOEIの広報スタッフさん立ち会いのもと、実際に設備を使わせていただき、新旧のZシリーズ(ヒゴシ私物のZ-7とSHOEIからお借りしたZ-8)を比較する機会に恵まれた。

まず案内されたのは、最高230km/hまでの領域を再現できる風洞実験設備。バイクを挟むように設置されたおよそ1.5m四方のダクトこそ、この設備のキモとなる風洞設備そのもの。前方で発生する風が後方のダクトに流れ込み、壁の向こう側をぐるりと回って戻ってくる(回流する)ことでさまざまな数値を安定して計測できるのだという。

実際に走行するとエンジン音や他車が出す音などにまぎれてしまう風切り音も、こちらでは当然ハッキリと感じられるとともに、ここでは小型マイクを使うことで、ライダーの耳に入る風切り音と同じものを正確に計測できるのが利点といえる。音という感覚的にしか表現しづらいものだけに、それを機械的に測定できるのはSHOEIのヘルメット開発にとって大きな意味を持つことは明らかだ。

次はおニューの低温降雨風洞設備。いかにも実験施設然とした佇まいにアガる。こちらは最大72km/h相当、マイナス5度くらいまでの低温環境を再現でき、さらには降雨状態の検証もできる。

百聞は一見に如かず。早速体験してみる。シールドを叩く雨。曇っていく視界。街乗りではなく高速を走っているときに雨に降られるあの感覚、気分が蘇った。人工的に再現されているとわかっていても、気持ちの萎えっぷりがすごい。それだけリアルということか。

なお、新旧Zシリーズを比較してみて、驚くほどハッキリ違いを感じた。明らかにZ-8が快適なのだ。もちろん、Z-7の風切り音がうるさいわけでない。Z-8のそれがかなり抑えられている、といった感じで、着ていたジャケット(風洞設備用に車両と体を固定する安全帯が付いたもの)の襟元で起こる風の巻き込み音が、Z-7では風切り音に遮られてそもそも聴こえないのに、Z-8だとそれがちゃんと聴こえ、ジャケットの首まわりを整えたくなるほど。そんなわずかな違いまで感じることができた。

あと、個人的にいちばん興味深かったのは、これら設備がSHOEIの中の人たちによって作られたということだ(もちろん全てではない)。同社がこれまでに蓄積したデータやノウハウ、そして感覚を活かしながら、自ら試行錯誤して実験設備を作ったことに、ヘルメット業界を牽引するSHOEIのメーカーとしての高い意識、そして矜持の高さが見て取れる。

ヘルメットは何よりまず安全であることが大前提。そこに快適性やデザイン性などの価値を付与して、ユーザーが欲しくなる、被りたくなるヘルメットが生まれる。その誕生過程にこの設備があると思うと、いちSHOEIユーザーとしてここに潜入できたことに感謝カンゲキ雨嵐なのである。そう、降雨を体験できる風洞設備だけにね。

※こちらの記事は、Moto NAVI 2022 SPRING(2022年3月24日発売)に掲載された記事を加筆修正したものです。