ビックリ新記録? ウイリーでマン島を走り切ったライダーとは?
最も長い歴史を持つオートバイレースが開催されるマン島は
世界中のライダーが一度は走行してみたい憧れの場所のひとつ。
そんな聖地といえる全長60.7kmのコースをウイリーしながら1周走り切ったライダーがいるのをご存知ですか?
文/高梨達徳(Moto NAVI) 写真/Red Bull Content Pool
イギリスの王室属領であり、グレートブリテン島とアイルランド島に挟まれた場所にある「マン島」。毎年5月の最終週から6月の第1週にかけて開催される「マン島TTレース」は、世界最古のオートバイレースとして多くのライダーや技術者が参加しています。1周60.7kmのコースは普段、生活に使われている一般道で、396mの高低差があり、200以上のコーナーを走り抜ける過酷なもの。路面状況も整備されたサーキットとは異なり、ギャップが多くコース横には民家や石垣が存在。そのような中を走り抜けるため、世界一危険なレースという側面も持ち合わせています。日本では1954年に本田宗一郎が大会への出場宣言をし、現地を視察するほど熱狂していたのは有名な逸話です。なお、アジア人で初めて参戦、完走したのは多田健蔵で1930年のことでした。当時、彼が輸入していたイギリスのオートバイメーカー、ベロセットからの招待で、シベリア鉄道に乗ってユーラシア大陸を横断しての参戦でした。
写真は1959年にホンダRC142を駆る谷口尚己選手
そんな伝統あるコースをウイリーしながら完走しようと試みたのは、イギリス・ヨークシャー出身のトライアルライダー、ドギー・ランプキン。1997年から7年間、トライアル世界選手権を制したレジェンドライダーです。2012年の引退後は、イタリアにあるテーマパークの廃墟やフィンランドの氷でできたリゾートホテルなど、世界中を飛びまわり、さまざまな場所で人間離れしたバランス感覚と卓越した技術を駆使したライディングを披露しています。
タイヤが接地できる場所ならどこでも走れてしまうドギーでも、これまでにない長時間のライドに合わせて7ヵ月間に及ぶトレーニングを積み、大きな燃料タンクやスタンディングできるステップを取り付けたスペシャルマシンを仕立てるなど、入念に準備しての挑戦でした。しかし、悪天候により予定していたスケジュールでのスタートは断念せざるをえませんでした。
そして迎えた2016年9月25日。マン島TTレースのメインスタンドがあるダグラスで、ドギーはフロントタイヤを持ち上げて走り始めました。
途中、強風や渋滞に巻き込まれながらも、ドギーは1時間35分のタイムで完走しました。ちなみにマン島TTレースの最速タイムは2018年にシニアクラス(トップカテゴリー)で、ピーター・ヒックマンが叩き出した16分42秒778です。
「成功して気が楽になった。この日まで7ヵ月準備を重ねてきたことを考えると、本当にほっとしている。前日から天候が荒れ、今日も山頂で強風に見舞われた。なんとかやりきったという感じだ。最後の数メートルまで気が抜けなかったが、その数メートルは最高だった」とゴールでインタビューに答えたドギー。もちろん世界記録として、ギネスに登録されました。
そんなドギー・ランプキンの偉業は動画でもチェックすることができます!