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北のボ日記 #16「あふれる熱い涙」

ボルボS80によるいきあたりばったりの旅も
いよいよ折り返し地点を過ぎ、東京を目指す。
……が。うまくいかないのがこの連載ということで……。

文と写真/淺川覚一朗

ノープランのお気楽極楽ツーリングは本州を近畿から中国へ。スマホのソシャゲ「艦これ」からの連想で、京都・舞鶴から軍港つながりの広島・呉に向かい、そこを西の折り返し地点と決め、ボルボS80は瀬戸内海をフェリーで松山に進んだ。

北のボ日記 #15「ゆきゆきて、広島」

昨晩は、日が暮れてから愛媛・松山に上陸。例によってフェリーの中でホテルを探し、スムーズに見つかったのは幸いだったけれど、着いてみると、大アーケード街のそばの、大歓楽街の只中にあったことに驚いた。いや、とにかく賑やかで人が出ている。たまった洗濯物をランドリーで回しているうちに、なんとなく食事に出かけるタイミングを逃してしまう。窓の外で遅くまで大声ではしゃいでいる若者たちに気圧されてしまったのだろう。
そして翌朝、早々にチェックアウトしたあとは、まずは「聖地巡礼」に行かなければ! 松山といえば「坊ちゃん」「夏目漱石」「道後温泉」(そして「坊っちゃん団子」)なのだ。

おそらく、読者のほとんどが「はあ?」という顔をすることと思うけれど、筆者アサカワが文章文体において私淑しているのは夏目漱石だったりする。これはもう小学生以来の刷り込み効果でもあり、頭の中に張り付いている宿命のようなところもある。「それでこの文章?」と言われてもまあ、仕方のない話だけれど。

道後温泉駅にスタバの看板が鎮座していたのには驚いたけれど、レトロ調の駅舎は写真を撮る人がひっきりなしの映えスポットだった。
しかし──折りからの改装工事で営業を縮小している道後温泉は、整理券を手に入れるにも長蛇の列で、午前中の入浴はかなわず、泣く泣くあきらめる。

やりきれないときは、食欲だ。まだまだ早い時間だったので「松山+朝食」でググると、良さげなモーニングサービスのある喫茶店を見つけた。ホットサンドに、オプションで玉子をつける。西に来てからこっち、モーニングばかり食べてるような気がしてきた(そしてじつは、SAやフェリーの中でもどこでも、うどんを食べている。安くて美味しい!)

フライング・スコッツマン木屋町
https://maps.app.goo.gl/KqFnQWKpU7vGtpBz7?g_st=ic

瀬戸内海汽船
setonaikaikisen.co.jp/kouro/cruise/

行き当たりばったりの旅とはいえ、流石に翌日の予定くらいは決める。
兵庫にいる旧友と連絡を取り合っていたのが、どうやらお互いのスケジュールが合いそうになったので、明日は丹波篠山市あたりでランチを一緒にしようという話になった。となると、今日はこれから松山道、高松道、を東に進み、本四連絡橋 鳴門・神戸ルートから兵庫に入って、ホテルにチェックインしよう。

そして、ここまでの長旅を経て、そろそろボディの汚れが気になってきた。
ボディのガラスコーティングの養生期間も明けたので、ついにゲート洗車を解禁する。
水洗いしただけでカラスのナントカのような漆黒の闇が出現することに驚く。ピカピカに輝くというよりは、ヌメッとした質感の美しさがそこにある。
拭き上げはあっという間に終わる。ただ、ボディの表面がまるで滑らなくなっているので、ここで始めて、渡されたボディクリーニングキットの中に「リンス」が入っていたことの意味を知ることになったのだけれど。

北のボ日記 #12「ガラスのコーティング光る時」

そして、ウインドウォッシャー液を補充して、これからも続く長旅に備える。ところが、何かおかしな音がする、床下からピチピチ言うような……漏れてた! タンクの直下の地面に水が跳ねるようなペースでダダ漏れになっている!(上画像右)
ウォッシャーは機能している。ということは、ある程度手前の段階で漏れているということになる。タンクか? ところが、青いキャップのそばにタンクの姿は見えない。隣のエアクリーナーボックスを外してみたけれど、タンクそのものはシャシーの構造物の下にあるようだ。(画像下)
どうやらインナーフェンダーやバンパーを外さないとアクセスできないようで、旅先のガソリンスタンドで手をつけられるようなものではない。残量ゼロまで抜け落ちてしまうことは無いので、ここは様子を見ることにする。

ノープランの旅、ここにきていよいよ宿に困り、神戸のホテルは全滅。姫路に足を伸ばしても厳しい。目的地の丹波篠山の手前のどこかで泊まるところを探すと、加東市にやっと空きがあった。明石海峡大橋の大渋滞を避け、淡路島をしばらく走ったりと、エクストリームな渋滞を回避でグッタリと疲れた旅程で、寝るだけのホテルに深夜にたどり着く。
翌日は雲も無いような見事な快晴。旧友に会うというものは、うれしく、どこか気はづかしい。
名物だという「猪肉とろろ丼」を食べる。猪、山芋、そして米も地場産のものを使っているという一品。バラ肉なのに、味噌味でさっぱりと食べられて美味しかった。

大手食堂
https://maps.app.goo.gl/HTs9dDozz8woxEV37?g_st=ic

丹波篠山というと、黒豆の産地というイメージが勝っていたのだけれど、江戸時代の要衝だったことが、篠山城の遺構を歩いて実感できた。
旅というものは、どんな交通手段を使ったとしても、最後は足だったり、舌だったり、ごく近い距離で実感するものだということを再確認する。

そして、このグランドツーリングの最大の山場にして、最大の踏破。正直長いだけでなんのドラマもない東京への移動が始まる。
これはもう、兵庫から東京までのリエゾンで、正直、事故渋滞から逃げてゆっくりした三重県の湾岸長島PAできしめんを食べて足湯をつかったことくらいしかエピソードは無い──はずだった。

──次回、走行中にオイルレベル低下! しかし0W−40オイルが見つからない! さあどうする?

*    *    *

著者紹介
淺川覚一朗
じつは旧「NAVI」当時から隅っこで書き続けている古株。「Moto NAVI」が「バリ伝」「ララバイ」を特集したときには水を得た魚になったサブカル系ライター。現在は“バイクな本”専門の書評連載「Moto Obi」を担当。一方で、北海道美唄市の「地域おこし協力隊」として同市の街おこしや情報発信に取り組んだり、地元紙「空知プレス」にコラム「地域おこしのタネ」を連載中。