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北のボ日記 #15「ゆきゆきて、広島」

舞鶴に向かうこと以外はノープランの旅に出たボルボS80。
そしてあることをきっかけに、広島は呉を目指すことに。
果たして、S80は何事もなく旅を続けられるのか……?

文と写真/淺川覚一朗

最新世代のオールシーズンタイヤ「ミシュラン CROSSCLIMATE 2」のロードインプレッションのために、ボルボS80は西へ向かう。舞鶴行きのフェリーのチケット以外は、何も決めていないノープランの、気ままで無計画な旅は、まだ始まったばかりだった……。

北のボ日記 #14 「ボルボS80西へ」

なぜ小樽─舞鶴便だったのか? それは、北海道からの船便で一番遠くまで運んでくれるのがこの路線だったから、ただそれだけのことで、舞鶴は経由地でしかなく、夜遅くに着いて、朝食を済ませたら出発しようと思っていた。しかし、そのまま通過してしまうには惜しい──と、途切れ途切れのケータイの電波で、なんとかホテルを予約した。

──だって、鎮守府だもの

いや、ゲームに興味のない人には全くピンとこない話だろうけれど。
しかし、それを思い出した途端、次の目的地は「呉」に決まった。なぜって? 鎮守府だもの。

艦隊これくしょん -艦これ-
www.dmm.com/netgame/feature/kancolle

というわけで、朝一番に軍港巡りの遊覧船に乗り込んだ。
横須賀で、同じような遊覧船に乗ったことはあったけれど、港の景色がまるで違う。東京湾に張り出している横須賀と違って、リアス式の入江の奥の静海にある港は、雨もよいの天気と相まって、一服の絵のような景色を見せてくれた(画像左:補給艦ましゅう型のネームシップ「ましゅう」は、全長221メートルの大型艦。ちなみに、戦艦大和は263メートル)
港内には、先頃除籍された最後のはつゆき型護衛艦「まつゆき」の姿(画像右)があった。就役は86年とあって、環境構造物などの意匠が、いかにもオーセンティックで軍艦らしい姿をしている。塗りつぶされた艦番号が、なんとも侘しい。お疲れさま、と声をかけた。

軍港めぐりのあと、漁港の食堂で朝ご飯を食べようと思ったら、臨時休業らしく、次のアイディアに困ってしまったが、ここ舞鶴も京都なのを思い出し、喫茶店でモーニングを食べることにした。ワンコインでこれは、ちょっといいでしょう?

喫茶 蓼(Googleマップ

夜通し降ったり止んだりの雨もいよいよ上がり、空が明るくなってきた。
舞鶴観光に後髪を引かれながら、中国道で呉を目指すことにする。いや、全く、鎮守府繋がりというだけの理由で。
呉までは、およそ400キロ弱、のんびり行けば5時間、あるいはもっとかかるだろう。

このS80は当初、かなりガッカリなタイヤ(ラウフェン S FIT EQ)を履いていたこともあって、ナンカンのスタッドレスタイヤESSN-1に履き替えたときの印象は、むしろ静かになった(!)くらいだったけれど、剛性の低さや、耐ハイドロプレーンの弱さなどから早々に見切りをつけ、ミシュランのX-ICE SNOWにスイッチ。
そして、このCROSSCLIMATE 2は、スタッドレスタイヤとしての雪上性能を充分に持っているということで、柔らかいのか? 剛性は大丈夫なのか? こんなに大ぶりなトレッドパターンで、走行音は高くないのか? ──決して充分に整備された路面とは言えない中国道を西進しながら、ずっとそんなことを考えていたのだけれど、それがとにかく静かなので驚いてしまった。これは冬タイヤでドライ路面を走る音質、音量ではない。
そして、山間のワインディングでも、橋のジョイント、傷んだ路面でも、しっかりとした剛性感と、安定性がある。
これが圧雪もシャーベットも走れるというのだから、ちょっとしたマジックだろう。そのへんは、このタイヤと長くつきあっていって、じっくりと検証したい。

北のボ日記 #1「インチアップに耐えられなかったアジアンタイヤの話」
北のボ日記 #2「ブレーキだけでは測れないスタッドレスタイヤの“安心”」

途中に休憩や仮眠を挟んで、あんまりのんびり走ってきたので、呉には暗くなってから到着。コンビニのおにぎりを食べながら、朝一番に駆けつける「森田食堂」のことばかり考えていた。
呉に行こうと思い立ち、真っ先に思い出したのがここの存在、というくらいに気になっていたこの店で、他人丼とビール。
先客の老人たちが賑やかに朝から飲んでいると思ったら、みな行きずり同士だったようで、それが意気投合してビールや日本酒の杯を重ねている。みんな、お行儀が悪くて最高じゃないですか。

森田食堂(Googleマップ

出発するのは夕方だけれど、調子に乗っておかわりしてしまった瓶ビールを抜いておこうと思って、いろんな湯船がたくさんある、ビルの中のスパ施設でのんびりした。
数センチの水深の極浅の湯船の中で、腕立て伏せをしてたのは……どう考えても自衛隊の人だよね(ぽちゃん)

そして、男たちの大和。大和ミュージアムにやってきた。
メイン展示の1/10スケールの戦艦大和の巨大模型は全長26.3メートル! 他にも、実艦の遺物や当時の資料、多くの軍艦の模型など、興味深い展示が豊富で、軍港めぐりの遊覧船をキャンセルしてこちらをじっくり眺めることを選んでしまった。

呉の軍港は、陸上から眺めることができる施設が多いのも特徴で、特に、道路からすぐそばの桟橋に、ずらっと並んだ7隻の潜水艦は壮観だった。
横須賀、舞鶴、呉、この三港の比較では、呉が一番距離が近い港に思えたし、そこでまた「この世界の片隅に」の世界観を追体験できた気がする。

この旅の折り返しはこの呉に決めた。ここからフェリーで四国、愛媛の松山港に向かう。ここでは、ボルボオーナーにはお馴染みのアレを正しい? 用途で使ってみた。フロントウィンドウの端にある透明樹脂のクリップは、聞くところによると、フィヨルドを行き来するフェリーの乗船券をそれとわかるように挟んでおくものだという。

この日は松山に宿泊し、朝から兵庫、京都方面に向かうことにする。道路を移動する距離は、これからが長い。

──ボルボS80に、まさかのトラブル! さらに警告メッセージが! 待て、次回!

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著者紹介
淺川覚一朗
じつは旧「NAVI」当時から隅っこで書き続けている古株。「Moto NAVI」が「バリ伝」「ララバイ」を特集したときには水を得た魚になったサブカル系ライター。現在は“バイクな本”専門の書評連載「Moto Obi」を担当。一方で、北海道美唄市の「地域おこし協力隊」として同市の街おこしや情報発信に取り組んだり、地元紙「空知プレス」にコラム「地域おこしのタネ」を連載中。