MOTORCYCLE

Motorcycle QuestionS(2019年6月号 No.100)前編

文/高梨達徳(Moto NAVI) 写真/高柳 健

乗車時での安全意識が高まっている中、一番注目されているライディングギアといえば胸部プロテクターだろう。 国内メーカーで一番軽量かつ薄型のモデルをいち早く市場へ導入したRSタイチの開発者に、そのこだわりを聞いてみた。

「一番初めはヨーロッパに輸出する際に、海外の営業担当からプロテクターにCEマークが付いてないとライディングウェアとしてEU内で流通できないという話を聞いたんです」

自社のプロテクターが開発される前は、日本でいうところのJIS規格にあたる安全基準をクリアしたプロテクターメーカーの製品を、RS TAICHIはジャケットなどに組み合わせて販売していた。

「ヨーロッパの人向けに設計されたものばかりだったので、国内向けにはサイズも大きく装着しても重く動きにくいアイテムが多かったんです」

そう話すのはRS TAICHIの企画部に所属する栗栖慎太郎さん。アパレルやプロテクターなどの企画や開発を担当している。着脱が簡単なBOAを採用したライディングスニーカーやライディングウェアをよりカジュアルなものにした、マウンテンパーカーなど、近年のいい意味で“バイク離れ”したアイテム展開は彼の影響が大きい。

「調べていくと、ヒジや脊髄、胸部など場所によって規格の基準が異なるんです。私たちも順を追って開発していきました。ようやく社内にノウハウも蓄積でき、欧州の認証機関とも直接やりとりができるようになった頃、ホンダのアパレル担当から胸部プロテクターに関して、ひとつの提案がありました」

その提案とはアパレルメーカーを問わず、共通の取り付けシステムを採用し、胸部プロテクターの普及を企業側から促進しようというものだった。

「お話を頂いた時に弊社社長の松原弘から、来シーズンからすべてのジャケットに採用できるか聞かれたんですけど、僕自身もあまり興味を持てなかったと言いますか、あまり乗り気ではありませんでした。当時は胸部プロテクターの装着率はたったの2%ほど。サイズも大きく重量のあるプロテクターしかありませんでしたし、進んでいたプロジェクトを変更するにも多くの予算を追加しないといけません。販売を開始してもあまりいい数字が残せないと思っていました」

そんな時に、学生時代にモトクロスなど、バイク関連で親しくしていた先輩が、事故で亡くなったという知らせが栗栖さんに届く。葬儀に参列した際、愛用していたライディングギアが展示されていたが、ジャケットやヘルメットはほとんど傷がついていなかった。

「胸部を強く打ったことが亡くなった原因と聞いた時、僕のような立場にいる人間がもっと真剣に開発を進めていたら防げたかもしれないと、いまでも後悔しか残っていません。国内のバイク事故の多くは、交差点などで起こるクルマとの接触事故が多くの割合を占めています」

事故での死亡要因で一番多いのは、頭部の損傷で約40%。次に多いのが胸部でおよそ35%と言われている。

「クルマのルーフなどに胸を打ちつけるケースが多く、他の部分のように柔らかく衝撃を吸収するだけで守れるわけではありません。陥没などの危険性がある胸部に関しては、強度が絶対的に必要です」

日本人の体型に合わせて、まずはマテリアルから考え直すことなった。金属やカーボンなども検討したが、もしも破損した場合に破片などで負傷する可能性があるために割れない素材が好ましく、採用とはならなかった。軽量で薄く、さらに強度がある素材を求めているうちに、特殊なプラスチック成型技術を持つ会社と巡り会い話を持ち込むことになる。いままで取引していた企業とは異なる業種だったためにお互いにうまくコミュニケーションが取れなかったが、スタッフの中にライダーがいたことで考えや思いがスムーズに伝わるようになったという。

「弊社の考えとして、ものづくりを進めていく上で顔の見えない人とのやりとりは基本的にしません。こちらの求めているものがきっちり伝わるまで何度でも伺って話し合うようにしています。必要ならばヨーロッパでもミャンマーでもどこにでも飛んでいきますよ(笑)」
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取材協力RSタイチ