バイクに乗る理由は、ライダーの数だけある。遠くに行きたい。速く走りたい。旅に出たい。友達を作りたい。自分を変えたい……。
10代かそこらならまだしも、歳を取るとどうしても何か理由をつけてバイクに乗り始めがちだ。だが、バイクに乗ることに理由は必要か？ もっと軽い気持ち――かっこいいから。自転車じゃ疲れるから。クルマは怖いから。公共の交通機関は面倒くさいからとか、要はなんでもいい。バイクをそんなに高尚なものと捉える必要はないのだ。乗ってみたいから乗る。それでいい。

トライアンフのトライデント660に乗った際、そんなことを思った。現在発売中のモトナビ本誌での撮影時、東京都内をのんびり流しているときだ。撮影場所を巡る移動であってツーリングではないし、クルマと一緒に移動していたので飛ばすわけでもない。Tシャツ一枚で近所を散歩するくらいの気持ち。それをバイクに置き換えた、とでも言おうか。
個人的には、そんなふうにバイクに乗っている時間が好きだ。難しいことは考えず、バイクと雑談でもしながら走るような時間。もちろん、目的を持ってどこかに行くツーリングのような道中も楽しい。しかし、目的地などなくても、バイクは楽しいものだ。

ただ、それにはストレスなく走れることが重要で、あまりにもハイパワーだったり、大きく重かったり、逆にクルマの流れに乗れないような非力すぎるバイクとでは、そうもいかない。
その点、トライデントのようなミドルクラスのネイキッドバイクはちょうどよい。何のストレスもなく走れる。走る環境はすぐに変えられないが、乗るバイクは選べる。気持ちよく付き合えるバイクで気持ちよく走る。それはとても幸せなことで、トライデントはそのポテンシャルを確かに持つ。キーを回してメーターが目覚めるアクションを見た瞬間。セルを押してエンジンをかけ、3気筒エンジンの唸りを聞いた瞬間。クラッチレバーを握って左足でギアを1速に入れ、クラッチを繋いで走り出した瞬間。それぞれの瞬間にトライデントの持つ面白さがにじみ、伝わってくる。

語弊を恐れずに言えば、トライデント660はブーツではない。スニーカーのようなバイクだ。足を保護しなければいけないときや、おめかししたいときには欠かせないブーツだが、ちょっとした外出時には重ったるいこともある。やはりカジュアルに外出を楽しみたいなら、スニーカーを履くといい。それはバイクも同じで、日常的にスポーツライディングや超ロングツーリングを望むならともかく、主に街乗りやツーリングを楽しむのであればトライデントは本当に適している。体格を選ばない400ccクラスのサイズ感に、必要十分なパワー。それに加えて、所有感を満たす高い質感ながら100万円を切るプライス。大型バイクを乗り継いできたライダーの次期バイクとしてはもちろん、リターンライダーにも、そして初めての一台としても、トライデントは自信を持って勧められる。むしろこれ以上、何を望もうか。

もちろん、最初のバイクなんて中古でいい、安いほうがいいという意見があることは承知している。個人的にはそれに同意する面もあれば、そうでない面もある。
そもそもバイクに乗り始めるには、ある程度まとまったお金がかかる。車両代はもちろん、免許の取得にヘルメットやグローブなどの装具代。場合によっては駐車場代も必要だ。だからこそピンからキリまで選べる車両代を抑えたい気持ちはわかるし、自分自身も中古車を乗り継いできた。
しかし、中古車は――特にやたら安いものは――経年劣化や前オーナーの使い方、保管の仕方にまつわるトラブルがつきものだ。中古車販売店でしっかり整備されたものならともかく、素性の知れない相手からネットオークションやフリマサイトで購入するのはリスクしかない。その点、新車を購入すれば明らかなリスクは回避できる。とくにバイクに関する知識が少ない初心者には新車を勧めたい。せっかく買ったバイクがトラブル続きでは乗りたい気持ちも失せてしまうし、経済的にも負担になるからだ。

トライアンフでも現在、全国でディーラー網の強化が進んでいる。最新のコーポレート・アイデンティティが導入された、ブラック一色の外壁にモノトーンのユニオンジャックを掲げる店舗を見たことがあるライダーも多いだろう。トライデントが少しでも気になるのであれば、ぜひ店を訪ねてみてほしい。そろそろ試乗車の用意ができた店舗も出てきている。いくらここでトライデントはいいぞ、なんて言ったところで、実際に現物を見て、またがって、試乗するその体験に勝てるはずがない。バイクに詳しくないから、しばらく乗ってないから、輸入車に乗ったことがないから、なんて理由でトライデントに手を出さないのはもったいない。目的はないけどなんとなく乗ってみたい。かっこいいから気になる。きっかけはそのくらい軽くていい。輸入車のディーラーなんて敷居が高くて……なんて思っている人にこそ、ぜひ足を運んでもらいたい。ドアを開けた瞬間、それが杞憂でしかなかったことにすぐ気づくはずだからだ。

トライアンフ・トライデント660 公式サイト
www.triumphmotorcycles.jp/bikes/roadsters/trident